パーソナルツール
contents
 

訴状

(原告被告住所を伏せ字にした。地理的な関係(裁判管轄の議論)の参考のため、「京都市」「横浜市」だけ残した。)

訴 状

本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。

この訴状は中西氏からいただいたコピーをhtml化したものです。○に数字は機種依存文字ですので、1)、2)などに置き換えました。


訴 状

2005(平成17)年3月16日

横浜地方裁判所民事部 御中

原告訴訟代理人弁護士 中下裕子

同 弁護士 神山美智子

同 弁護士 長沢美智子

同 弁護士 中村晶子

〒***-**** 京都市■■■■■■■■■■■■■
     原告 松井三郎

〒105-0004 東京都港区新橋4−25−6 ヤスヰビル2・6階
       コスモス法律事務所(送達場所)
       電 話 03−3432−1475
       FAX 03−3437−3986
     上記訴訟代理人弁護士 中下裕子

〒105-0001 東京都港区虎ノ門5−11−11 岩崎ビル3階
       神山法律事務所
       電 話 03−3431−5908
       FAX 03−3459−1212
     上記訴訟代理人弁護士 神 山 美 智 子

〒105-0004 東京都港区新橋1−15−5 第一光和ビル5階
       ニューブリッジ総合法律事務所
       電 話 03−3503−3531
       FAX 03−3503−3532
     上記訴訟代理人弁護士 長沢美智子

〒105-0001 東京都港区虎ノ門4−2−6 第二扇屋ビル8階
       仙石山法律事務所
       電 話 03−5401−1307
       FAX 03−5401−1308
     上記訴訟代理人弁護士 中村晶子


〒***-**** 横浜市■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
     被告 中西準子

損害賠償等請求事件
 訴訟物の価額 金350万円
 貼用印紙額 金2万2000円

第1 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金330万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
2 被告は、別紙(1)記載の謝罪文を、同人のホームページ「中西準子のホームページ」(http://homepage3.nifty.com/junko—nakanishi/)に、別紙(2)の掲載条件で掲載せよ
3 被告は、日本内分泌攪乱化学物質学会が発行するニュースレター「Endocrine Disrupter NEWS LETTER」に別紙(1)記載の謝罪広告を掲載せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする
との判決及び第1項につき仮執行の宣言を求める。

第2 請求の原因
1 当事者
(1)原告は、京都大学地球環境学大学院地球環境学堂の教授であり、平成13年度から同15年度まで文部科学省特定領域研究班「内分泌攪乱化学物質の環境リスク」の代表を務めていた。
(2)被告は、東京大学環境安全研究センター教授、横浜国立大学大学院環境情報研究院教授を経て、現在は独立行政法人産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センターの所長を務めている。被告は、平成10年9月11日以来、自らのホームページである「中西準子のホームページ」(http://homepage3.nifty.com/junko—nakanishi/、以下本件HPという)を開設している。平成17年3月7日現在の本HPへのアクセス数は80万人を超えている。
(3)被告は、平成16年12月15日から17日まで名古屋に於いて開催された環境省主催の「第7回内分泌撹乱化学物質問題に関する国際シンポジウム」の第6セッション「リスクコミュニケーション」の座長を務め、原告は同セッションにパネリストの1人として参加していた。

2 被告による名誉毀損行為
(1)被告は、平成16年12月24日、本件HPに、「雑感286−2004.12.24『環境省のシンポジウムを終わって−リスクコミュニケーションにおける研究者の役割と責任−』」と題する記事(以下、本件記事という)を掲載し、その中で「最初の情報発信に気をつけよう」という小見出しの下に、以下のような記載を行った(甲第1号証)。
1)「パネリストの一人として参加していた、京都大学工学系研究科教授の松井三郎さんが、新聞記事のスライドを見せて、『つぎはナノです』と言ったのには驚いた。要するに環境ホルモンは終わった、今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である。」
2)「スライドに出た記事が、何新聞の記事かは分からなかったし、見出しも、よく分からなかった(私の後ろにスクリーンがあり)ナノ粒子の有害性のような記事だったが、詳しくは分からなかった(読みとれなかった)。・・・
その論文だと思ったのだが、帰宅して新聞記事検索をかけると、New York Timesなどには出てくるが、日本の一般紙には出ていない。したがって、別の論文の紹介のようである。その内容がどういうものかは分からないのだが、いずれにしろ、こういう研究結果を伝える時に、この原論文の問題点に触れてほしい。
学者が、他の人に伝える時、新聞の記事そのままではおかしい。新聞にこう書いてあるが、自分はこう思うとか、新聞の通りだと思うとか、そういう情報発信こそすべきではないか。情報の第一報は大きな影響を与える、専門家や学者は、その際、新聞やTVの記事ではなく、自分で読んで伝えてほしい。でなければ、専門家でない。」
(2)被告は、上記の記載をすることにより、以下の事実を摘示した。
1)原告が、既に環境ホルモン問題は終わったものと考え、別の新たな課題(ナノ粒子の有害性)へと関心を移していること
2)原告が、原論文を十分に吟味することなく、新聞記事をそのまま紹介したこと
(3)被告は、上記1)2)の事実を指摘したことにより、あたかも原告が研究対象を短期間で次々と変更したり、原論文を読まずに新聞記事だけを鵜呑みにして情報を発信するような学者であるかのような印象を一般人に与え、内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)の環境リスクに関する研究に真摯に取り組み続けている原告の、研究者としての社会的評価を著しく低下させた。

3 損害
(1)原告は、京都大学大学院教授であるとともに、日本内分泌攪乱化学物質学会に所属し、前述のとおり文科省の特定領域研究班の代表として、内分泌攪乱化学物質の環境リスクに関する研究に従事し、この分野における代表的研究者の1人として大きな社会的評価を得ていたところ、被告の前記名誉毀損行為によって、その社会的名誉や信用を著しく毀損され、多大な損害を蒙ったものである。
(2)被告は、現在、産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センター所長の地位にあり、各省庁の審議会委員等も歴任している。被告のHPには、環境ホルモン問題を含む化学物質のリスク管理について関心を持つ多数の研究者、行政官、一般人がアクセスしている。原告の研究分野は、被告と共通する部分が多く、被告のHP上で原告の名誉が毀損されると、たちまち原告の研究分野の研究者や行政官、一般人にも知れ渡る可能性が極めて高い。現に、原告は、知人の研究者からの指摘を受けてはじめて、本件名誉毀損行為を知ったが、その後も本件記事を読んで、原告の社会的評価の低下を心配した連絡が複数の者からあったのである。
(3)被告は、前述のとおり、化学物質の環境リスク研究の分野においては指導的立場にあるのであるから、一方的な表現媒体である本件HP上で自らの意見を述べる場合は、徒らに他者を中傷、侮辱したり、その名誉を毀損することのないように、常に事実関係の確認を行うとともに、その表現に留意する必要があることは当然である。しかるに、本件名誉毀損行為は、他者の発言を碌に聞かず、事実(新聞記事)の確認もせずに、自らの勝手な思い込みに基づき他者を批判し、その名誉を貶めるというもので、到底、被告のような立場にある者としてあるまじき行為である。軽率の謗りを免れないどころか、「権力の驕り」の現れであって、極めて悪質な行為と言わざるを得ない。
もちろん、原告も、被告も、ともに研究者であり、研究者間で自由闊達に意見を述べ合い、互いに批判し合うことは許容されて当然である。むしろ、科学の発展は、建設的批判ぬきにはあり得ないといっても過言ではなく、その意味で建設的批判は大いに奨励されるべきである。しかし、言うまでもなく、そうした建設的批判は、事実に基づき、合理的根拠を示して論理的に行われるべきものであって、事実に基づかない批判は、単なる人格攻撃、誹謗中傷の類いにすぎず、不法行為に該当する。
いやしくも科学者であるならば、他者を批判するときは、少なくとも他者の意見をよく聞き、事実に基づいて行うべきは当然である。本件のように、碌に他者の発言も聞かず、事実も確認せずに、一方的に他者の名誉を毀損するような決めつけをするということは、科学者として断じて行ってはならない行為であると言わねばならない。到底「科学者」の名に値しない行為である。ましてや、被告は、単なる一科学者ではない。科学者を指導育成するとともに、国の科学技術のあり方を決定するという重責を担っているのである。そのような被告が、本件のような、およそ科学者にあるまじき名誉毀損行為を行った責任は極めて重大というべきである。
(4)以上の諸事情を総合的に勘案するならば、原告が蒙った社会的・精神的損害を慰謝するには、少なくとも金300万円が相当である。
(5)原告代理人らの弁護士費用は、慰謝料額の10%である金30万円が相当である。

4 名誉回復措置
(1)原告は、2005年1月17日、被告宛にメールを送り、前述の2の(1)の1)、2)の記載等に対し、事実に反するものであることを指摘して抗議した(甲第2号証)。すると、被告は、2005年1月20日、被告のHPにおいて、本件記事について2人から抗議があったこと、及び、それについて自己に非があることを認め、本件記事全体を削除した(甲第3号証)。しかし、抗議をしたのが原告であることも、原告への謝罪の意思も明示されていないため、原告の社会的評価は依然として低下したままであって、到底、名誉回復の措置が講じられているとはいえない。したがって、原告の社会的評価を回復するためには、少なくとも被告のHP上に別紙(1)の謝罪文を別紙(2)の掲載条件で掲載させる必要があることは明らかである。
(2)前述のとおり、被告の社会的立場および被告のHPへのアクセス状況に鑑みると、本件名誉毀損行為による影響は甚大である。本件行為によって一旦貶められた原告の研究者としての社会的評価は容易には回復しえないものであるが、少なくとも、原告の研究分野における研究者、行政官、一般人には早急に回復に努める必要がある。したがって、被告のHPのみならず、原告が所属する日本内分泌攪乱化学物質学会の機関誌上に別紙(1)の謝罪広告を掲載させるのが相当である。

5 結語
よって、原告は、被告に対し、本件名誉毀損行為に基づく損害賠償等の請求として、慰謝料300万円と弁護士費用30万円の合計金330万円及びこれに対する本訴状送達の翌日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払い、並びに、本件HPと日本内分泌攪乱化学物質学会の機関誌に、別紙(1)記載の謝罪文を別紙(2)の掲載条件で掲載することを求めて、本申立に及んだ次第である。
以上

証拠方法
1 甲第1号証 中西準子のホームページ(雑感286−2004.12.24「環境省のシンポジウムを終わって−リスクコミュニケーションにおける研究者の役割と責任−」)
2 甲第2号証 中西準子のホームページ(雑感289−2005.1.20「謝罪」)
3 甲第3号証 原告から被告宛に宛てた抗議メール(平成17年1月17日付)

添付書類
1 甲号証 正副各1通
2 訴訟委任状 1通

(別紙1)
謝罪文

2004年12月24日付雑感286「環境省のシンポジウムを終わって—リスクコミュニケーションにおける研究者の役割と責任」の記事において、京都大学教授松井三郎氏に関する記載をしたところ、松井教授から後記のような抗議がありました。抗議は、いずれももっともであり、私が事実を確認せず、松井氏の名誉を著しく毀損し多大な迷惑をおかけしたことを深く反省しております。
よって、ここに心から深くお詫び申し上げます。
年 月 日
中西準子
松井三郎殿

<松井氏の抗議文>
1)HPの記載「パネリストの一人として参加していた、京都大学工学系研究科教授の松井三郎さんが、新聞記事のスライドを見せて、「つぎはナノです」と言ったのに は驚いた。要するに環境ホルモンは終わった、今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である。」

←松井氏からの抗議:私はこのような趣旨でナノ粒子のことを指摘した訳ではありません。私の15分間のプレゼンテーションを、あなたは頭から聞かずに、無視をしていたのですか?私のプレゼンテーションは以下の流れです。
この3年間で急速に進歩した、遺伝子マイクロアレーの技術は、ヒトの遺伝子=約28,500強が活性化、抑制化、中立という理解で、評価できる事になったことを紹介した後、ダイオキシン=TCDDの遺伝子レベルでの有害性を解明するよき参照として、人の尿中に存在するインデイルビンと比較した紹介をしました。この時、なぜ人尿に意味があるかは、下水道、合併浄化槽(あなたが推薦している)に問題があることを指摘し、説明しました。TCDDとインデイルビンは、ヒト肝臓癌細胞の1176個の主要遺伝子の動きを比較した結果、殆ど同じ種類の遺伝子を同じように活性化していることを解明したと説明しました。そのことから、有害性の真の原因は、TCDDが細胞から排除されにくく、インデイルビンはCYP1A1等の酵素誘導で酸化を受けさらに硫酸抱合体等になって、細胞外、人尿中に排泄されやすいことを指摘しました。
次にTCDDの代わりに発癌性が明確なベンゾ(a)ピレンを使い、AhR(多環芳香族受容体=ダイオキシン受容体)に受容されたベンゾ(a)ピレンが、どのような機構で動き(環境ホルモンと発癌性の関係性の明確な説明)、受容体から離れた後に酸化、還元を受け、その間、スーパーオキシドを誘導し酸化態遺伝子付加体を形成し、遺伝子損傷の原因となるかという重要な説明をしました。あなたが、研究している発癌リスクの根本機構を説明したわけです。そして、TCDDは細胞から排除されにくい間に、遺伝子を過剰に動かし、CYP1A1、CYP19等ステロイドから女性ホルモン生成に関係する遺伝子が過剰に動く危険性を指摘しました。
その次にナノ粒子を指摘しましたが、ナノ粒子フラーレンについては、AhR(多環芳香族受容体=ダイオキシン受容体)で認識されないなら、一度細胞内に侵入すると細胞外に排除される機構が存在しない危険性を指摘したのであって、決してあなたが書かれたような発言はしていません。

2)HPの記載「スライドに出た記事が、何新聞の記事かは分からなかったし、見出しも、よく分からなかった(私の後ろにスクリーンがあり)ナノ粒子の有害性のような記事だったが、詳しくは分からなかった(読みとれなかった)。」

←松井氏からの抗議:私がスライドで示したのは、京都新聞の2004年8月28日夕刊のトップ記事です。ナノ粒子について述べているのは、前述のとおり、環境ホルモンの研究成果からナノ粒子の危険性が疑われるので、研究する必要があると説明したものです。なお、ナノ粒子の問題は、2年前に既に京都大学のナノ粒子を癌治療に役立てる研究をしておられた教授とも相談しました。現在、ナノ粒子が細胞外に排出される機構を研究している研究者は、日本でおられません。

3)HPの記載「学者が、他の人に伝える時、新聞の記事そのままではおかしい。新聞にこう書いてあるが、自分はこう思うとか、新聞の通りだと思うとか、そういう情報発信こそすべきではないか。情報の第一報は大きな影響を与える、専門家や学者は、その際、新聞やTVの記事ではなく、自分で読んで伝えてほしい。でなければ、専門家でない。」

←松井氏からの抗議:前述のとおり、私はあなたの目の前で、私の研究室で独自に解明したダイオキシンに関係する研究結果を、詳しく説明しました。決して新聞記事をそのまま伝えたわけではありません。あなたこそ、人のプレゼンテーションをよく聞いてから、意見を述べるべきではありませんか。
以上
(別紙2)
掲 載 条 件
1.使用する活字
(1)「謝罪文」という見出
12ポイントのゴシック体
(2)本文
12ポイントの明朝体

2.掲載場所
「中西準子のホームページ」(http://homepage3.nifty.com/junko—nakanishi/)のトップページの冒頭

3.掲載期間
本判決確定の日から3ヶ月間