甲9号証(陳述書)
甲9号陳述書(原告:松井氏提出書類)
本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。
甲第9号証
陳述書
2005年7月5目
横浜地方裁判所 第9民事部ろ係 御中
住 所 京都市■■■■■■■■■■■■
氏 名 松井 三郎
1.私の経歴等
私は、現在、京都大学地球環境学大学院地球環境学堂教授をつとめています。
私の学歴、職歴、これまでの主な業績等は以下のとおりです。
<学歴>
1966年 京都大学衛生工学科 卒業
1968年 同大学院修士課程 終了
1972年 アメリカ合衆国テキサス大学オースチン校博士課程 修了
Ph.D.(土木工学)
<職歴・業績>
1972年 茨城県鹿島下水道事務所 技師(主幹)
石油コンビナート排出化学物質の活性汚泥分解性の研究等
1975年 金沢大学土木工学科 助教授
都市下水処理法に関する研究
屎尿処理方法に関する研究
下水汚泥の処理処分に関する研究
染色排水処理に関する研究
流雪溝に関する研究
化学物質の遺伝子損傷性に関する研究
1986年 京都大学衛生工学科 助教授
嫌気性流動床に関する研究
1987年 京都大学工学部附属環境微量汚染制御実験施設教授
DNA損傷性物質の環境汚染に関する研究
琵琶湖の水質汚染に関する研究
1995年 京都大学工学部附属環境質制御研究センター 教授
1997年 京都大学大学院工学研究科附属環境質制御研究センター 教授
廃棄物の温暖化防止を目指した埋め立て方法の開発
嫌気性処理法の開発
環境汚染物質による人間細胞の染色体損傷に関する研究
2001年 京都大学大学院工学研究科環境工学専攻環境デザインエ学講座 教授
環境ホルモンによる水質汚染の研究
人尿中のAh受容体リガンドの発見
2002年 京都大学大学院地球環境学堂環境調和型産業論 教授
エコロジカルサニテーションの研究
環境信頼形成法の研究
<受賞歴・表彰歴>
1983年 月刊「水」賞受賞
1994年 合衆国環境工学教授協会優秀講演者賞受賞
1995年 土木学会環境工学フォーラム論文賞受賞
2002年 日本水環境学会「学術賞」受賞
<主な学会活動>
1996年 環境ホルモン学会 理事(現在)
1998年 日本水環境学界関西支部理事(2005年まで)
2002年 環境科学会 理事(2004年)
EICA環境システム計測制御学会 学会長(現在まで)
2003年 土木学会環境工学委員会委員長(2004年まで)
<主な社会活動>
1995年 ストックホルムウォーターシンポジウム科学プログラム委員(現在に至る)
1996年 UNEP国際環境技術センター 諮問委員(現在に至る)
雲南省エルハイ湖流域開発と保全委員会委員、UNDP‐UNEP 中国政府共同プロジェクト
1998年 メコン河開発と保全委員会、JICA(1998年)
建設省河川審議会統合政策委員会水環境小委員会委員
建設省都市計画中央審議会基本政策部会水緑環境小委員会委員
下水道新技術機構 下水道における化学物質対策委員(現在まで)
1999年 国土交通省 河川における有害化学物質対策委員会委員(現在まで)
2000年 イタリアベネト州 ベニスラグーン環境保全国際評価委員
文部科学省 科学研究補助金 特定領域研究(1)「内分泌撹乱物質の環境リスク」研究代表者(2005年)
2001年 ストックホルムJr ウォータープライ審査委員
滋賀県環境リスク検討委員会委員
2002年 厚生労働省厚生科学審議会生活環境水道部会委員(2003年)
英国ENGINEERING AND PHYSICAL SCIENClES RESEARCH COUNCIL PEER REVIEW COLLEGE 会員
2003年 滋賀県科学技術振興会議委員(2004年まで)
環境省化学物質リスク管理検討委員会委員(現在まで)
2004年 国連 地球環境ファシリティ科学技術パネル メンバー(現在まで)
2.文部科学省 科学研究補助金特定領域研究(1)「内分泌撹乱物質の環境リスク」研究と中西氏の関わり
(1)私は、平成13年度から同15年度まで、文部科学省の特定領域研究「内分泌撹乱物質の環境リスク」の研究代表者を務めていました。この研究は、日本の科学界において、化学物質の安全性を研究するにあたり、医学・薬学・理学・農学・工学の縦割りの弊害をなくし、学会や学部の壁を越えて大学院生が自由に行き来して、最新の知見を交換するという目的をもっておりました。当時、理工学委員会審査委員長であった野依良治教授(ノーベル賞受賞者、当時は受賞前)がこうした研究手法を評価され、特定領域研究班としての活動を認められたものです。
3ヵ年にわたる研究により、100名近い新分野を切り開く博士号取得者をこの研究班から生み出すことができ、国際的な面においても、内分泌撹乱物質研究のレベルを大きく前進させることができたと思います。文部科学省最終評価委員会においても、「A」の評価で、所期の目的を達成したと高く評価され、さらに研究成果をもっと多くの国民に知らせるようにとの要望が出されました。
(2)中西氏は、この研究が開始した平成13年度の計画研究と公募研究の審査委員(主査)(文部科学省指名)を務めておられました。したがって、中西氏は、この研究の内容について最初からよくご存知のはずです。また、私は、3年間の研究成果の概要を示す研究発表論文集や、文部科学省の最終評価委員会に提出した書類1式を中西氏宛に郵送いたしておりました。ですから、中西氏がこれらの書類に目を通しておられれば、その研究成果についても十分理解しておられたはずです。
3.岡際シンポジウムの経過について
(1)平成16年12月15日から17目まで、名古屋市において、環境省主催の「第7回内分泌撹乱化学物質間題に関する国際シンポジウム」が開催されました。その中の第6セッションは「リスクコミュニケーション」がテーマで、座長が中西氏でした。パネリストは、吉川肇子氏(慶應大学)、山形浩生氏(評論家・翻訳家)、日垣隆氏(評論家)、木下富雄氏(甲子園大学学長)と私でした。環境ホルモンのリスクコミュニケーションがテーマであるにもかかわらず、環境ホルモン研究の専門家は私だけという状況でした。
(2)シンポジウムに先立って、平成16年11月中旬頃、当日の発表のアブストラクトを提出するようにとの要請がありました。当目のディスカッションの進行について全く情報がない状況でしたので、とりあえず、自分の考えでアブストラクトを作成し、提出しました。
すると、11月27日頃、中西氏から私宛にメール(甲第4号証の3)が送られてきました。私のアブストラクトの内容が、中西氏が期待する内容とかなり外れているので、当日は、内分泌撹乱物質の性質や環境動態の解説は省いて、「あくまでも、リスクコミュニケーションがどうあるべきか、その中で学者の果すべき役割について述べて頂きたいと思います。内分泌かく乱物質についての議論に集中してください。…企業の果すべき役割について述べて頂くことは歓迎です。くどいですが、知識ではなく、お考えを述べてください。」と記載されていました。また、「私は曖昧な言い方はきらいで、気分を悪くさせるかもしれませんが、思い切って申しあげることにしました。今のままですと、むしろ先生にとってもマイナスになるような気がします。」とも書き添えられていました。
私は、常々、セッションのコーディネーター(座長)は、中立性・公平性に特に配慮すべきものであると考え、行動しておりましたので、このように自分の考えを押しつけてくる中西氏のやり方に違和感を覚えました。特に「今のままですと、むしろ先生にとってもマイナスになるような気がします。」という文章は、善意から出たものかもしれませんが、いかにも自分の言うとおりに修正しろと強制されているように感じられ、率直にいって不愉快に思いました。しかし、当日の進行に逆らうのも大人気ないと考え、私は、中西氏の希望に沿う形で準備をする旨返答しました。ただし、パネリストの中には、私以外に内分 泌撹乱物質研究の専門家がおりませんでしたので、私は、この分野の研究がどこまで進んでいるのかを紹介した上で、自分の意見を述べた方がよいのではないかと思い、「討論者は、内分泌撹乱物質の問題の専門家が少ないのが気になります」と書き添えておきました。
(3)シンポジウム当日、パネリスト控室で私は中西氏に、先に述べた文部科学省の特定領域研究計画研究と公募研究の審査委員(主査)を務めていただいたことに対しお礼を申し上げました。また、私が郵送した3年間分の研究成果を示す書類1式を中西氏が受け取られていることも確認させていただきました。中西氏は、パネリストの山形氏、日垣氏を紹介されましたので、私は中西氏の目の前で、お2人と名刺交換をしました。その際、私が京都大学に新しく設立された大学院地球環境学堂に所属していることや「学堂」の意味についても説明しました。中西氏も目の前で聞いておられたはずです。京都大学大学院地球環境学堂は、地球環境問題に取り組む研究と新しい人材を養成する大学院で、「学堂」は研究組織を意味し、これに対応する教育組織を「地球環境学舎」と称しています。「学堂」という呼称は、例えば、プラトンとアリストテレスを描いたラファエロの名画「アテナイの学堂」などに用いられています。
(4)パネルディスカッションが始まり、私は、スライドを用いて15分間の意見発表を行いました。スライド及びコメントの内容は別紙(甲第8号証)にまとめましたので、それをご覧いただければと思います。
私は、冒頭に内分泌撹乱物質の研究において、「わからないことがいかに多いかということがわかった」という環境省の上家課長(国際シンポジウム主催者)の発言を引用しました。これは私どもの会議前日に開催された、国内向けパネル討論において上家課長が、発言した言葉を引用しました。そして、科学者は、生命の秘密に触れて、自分達がいかに無知であるかを知っていること、科学者の役割は、「無知」を「理知」に変える努力をすることであること、内分泌撹乱物質の研究でわかったことの重大な点は、化学物質の影響を様々なエンドポイント(影響結果指標)で見ることができるということで、「発癌性」や「死」だけがエンドポイントではなく、「全き姿で生まれてくる新しい生命」を保障することも科学者の責任であることなどの意見を述べました。
(5)各々のプレゼンテーション終了後、会場の参加者を交えて意見交換が行われました。私は、化学物質の生産者として企業に第一義責任があることや、地球が有限であることから地球の化学物質生産総量を管理・制限する総量規制が必要であることなどを発言しました。私の意見発表や発言に対して、中西氏やパネリストからも、会場からも、一切批判はありませんでした。
4.中西氏の名誉毀損行為について
(1)シンポジウム終了後の平成16年12月24目付で、中西氏は自分のホームページに、「雑感286‐2004.12.24『環境省のシンポジウムを終わって‐リスクコミュニケーションにおける研究者の役割と責任‐』」と題する記事(甲第1号証)を掲載しました。その中には、私に関しての事実に反する記載や、私の名誉を毀損するような表現がありました。
私が、この記事を読んだのは、翌平成17年1月17日頃でした。知人の研究者から中西氏のホームページに私のことが記載されているが、事実なのかとの指摘がありましたので、上記記事を読んだところ、事実と異なる記述や、私に対する名誉毀損がなされていたことがわかったのです。その具体的箇所を以下に指摘します。
1)「パネリストの一人として参加していた、京都大学工学系研究科教授の松井三郎さんが、新聞記事のスライドを見せて、「つぎはナノです」と言ったのには驚いた。要するに環境ホルモンは終わった、今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である」という記述についてまず私は、「京都大学工学研究科教授」ではありません。「京都大学地球環境学大学院地球環境学堂」の教授です。このことは、前述のとおり、中西氏の目の前で、山形氏、目垣氏と名刺交換した際に、私が「地球環境学堂」の意味を説明しておりますので、中西氏も認識しておられたはずです。また、環境省作成の冊子にも私の肩書きが記載されておりましたので、目を通してさえいれば容易にわかることです。座長なのですから、パネリストの肩書き位は、正確に把握しておくべきは当然ではないでしょうか。ましてやホームページに掲載する場合には、正確な肩書きで紹介すべきではないでしょうか。仮に、中西氏が悪意をもっていなかったとしても、軽率の謗りは免れないと思います。
次に、私は、「環境ホルモンは終わった」などと発言したことはありません。むしろ、逆で、甲第8号証の第4図の口頭説明を見ていただくとわかるように、環境ホルモンの影響は、未だ不明なところが沢山あり、その解明が重要であること、つまり環境ホルモン問題は終わっていない旨の発言をしました。中西氏は、甲第1号証の記事を読めば明らかなように、環境ホルモン問題は騒動にすぎなかった(大したリスクはないのに大きな騒ぎになった)という勝手な結論を前提にして、そうした騒動を招いた学者の責任を問題にしておられるようですが、私は、そもそも、そうした前提に立ってプレゼンテーションを行ってはおりません。前述のように、環境ホルモン問題の重要な点は、発癌性や死亡のリスクとは異なる性質のリスク‐全き姿で生まれてこれるかどうかというリスク‐の存在を明らかにしたことで、このようなリスクは、発癌性や死亡のリスクに劣らず重要であると考えております。
中西氏は、文部科学省の特定領域研究の審査委員(主査〉を務めておられ、その研究成果の書類1式も受け取っておられたのですから、それらに目を通しておられるならば、私の論文も読んで、私がそのような発言をするはずがないことは十分わかっておられたはずです。もし、論文を読んでいなかったとしても、事前に私のアブストラクトを読み、また、当日のプレゼンテーションをちゃんと聞いてさえいれば、私がそのような発言をしていないことは、明らかです。
ですから、私は、中西氏がわざとこのような一方的決めつけをしたとしか思えないのです。もし、そうでないとしたら、中西氏は、文部科学省の審査委員(主査)を務めながら、論文を全く読んでいないか、読んでも内容をよく理解できず、また、シンポジウムのコーディネーターを務めながら、私のプレゼンテーションを全く聞いていなかったということになります。もし、中西氏が理解できなかったり、話を聞いていなかったというのであれば、一方的な決めつけをホームページ上で公表する前に、せめて私に質問・確認すべきではないでしょうか。自分で論文を読みもせず(読んでも理解できず)、他者の発表を聞きもせず、一方的に事実誤認の決めつけをし、さらにそれをホームページ上で公表して、他者の名誉を毀損するようなことが、果たして許されることでしょうか。中西氏は、「学問の自由」を強調しておられますが、このようなことが学問の名において許されると考えておられるのだとしたら、大変問題であると思います。学問を志す者は、謙虚な姿勢で他者の意見に耳を傾け、事実を把握することが求められます。他者を批判する場合には、事実に基づき合理的根拠を示して行うべ きは当然です。事実に基づかない一方的な決め付けによる批判は、単なる誹誘中傷にすぎず、およそ学問の名に値しないものだと思います。
2)「スライドに出た記事が何新聞の記事かは分からなかったし、見出しもよく分からなかった(私の後ろにスクリーンがあり)ナノ粒子の有害性のような記事だったが、詳しくは分からなかった(読み取れなかった)。…いずれにしろ、こういう研究結果を伝える時に、この原論文の問題点に触れて欲しい。学者が、他の人に伝える時、新聞の記事そのままではおかしい。新聞にこう書いてあるが、自分はこう思うとか、新聞の通りだと思うとか、そういう情報発信こそすべきではないか。情報の第一報は大きな影響を与える。専門家や学者は、その際、新聞やTVの記事ではなく、自分で読んで伝えてほしい。でなければ、専門家でない。」との記述について
甲第8号証の私のプレゼンテーションの概要を読んでいただければ明らかですが、私は、決してこの新聞記事をそのまま鵜呑みにして伝えたのではありません。私は、ダイオキシンが有害な理由として、細胞内のAh受容体に認識され、多くの遺伝子を動かしてかく乱を起こした後に、解毒代謝を受けることができず、細胞内に滞留し続けることが問題であると指摘しました。このことの証明として、我々が人体の血液、尿に発見したインデイルビンと比較して、インデイルビンがダイオキシンと同じ遺伝子群を動かしながら、すみやかに細胞外、尿中に排泄されることから、毒性を持たず、むしろ漢方薬として利用されている根拠として結論づけたものです。ダイオキシンが細胞内に滞留して細胞外に排出されにくいことが、毒性機構の基本にあると明確に指摘しました。続いて京都新聞記事を見せましたが、その時、新闘記事の研究内容とは別に、私自身が以前からナノ粒子‐特に、フラーレン炭素(炭素数60個で構成されるサッカーボール状の粒子)の細胞内外挙動を心配しており、京都大学の別の研究者と連絡を取っているが、研究が遅れていると発言しました。発言のポイントは、ナノ粒子〔粒子径がナノメートル(10億分の1メートル)のサイズであるもの〕の危険性として、容易に細胞内に侵入し、細胞外に排出される機構が分かっていないことが問題であると摺摘したわけです。つまり、ダイオキシン‐インディルビンの環境ホルモンの研究成果を踏まえて、科学者がどのように知見を利用するか、という点からの指摘を行ったもので、環境ホルモン研究は現在進行中であり、未知の問題が沢山あり、重要であると発言したわけです。
このように、中西氏によるこれらの記載が、私に対する事実無根の誹謗中傷であることは明らかです。中西氏は、私のプレゼンテーションをほとんど聞いていなかったか、聞き流したか、聞いていても理解できなかったか、意図的に論旨を変更したかのいずれかです。もし、意図的なものだとしたら、およそ学問の名に値しない名誉毀損行為であることは言うまでもありません。仮に、悪意でないとしても、ホームページ上で批判をするのであれば、事前に事実を確認した上で批判するのが「科学者」のモラルではないでしょうか。事実の確認もせず、誤った前提に基づいて他者をホームページ上で一方的に批判するのは、「言論の自由」に値せず、「言論の暴力」ではないでしょうか。
(2)そこで、私は、1月17目付で中西氏に抗議のメール(甲第3号証)を送りました。すると、翌1月18日、中西氏から「件のホームページを削除しました。後日、おちついてから、もう一度お返事します。ご迷惑をおかけしました。」という返答があり、1月20目付で「謝罪」とのタイトルの下に本件記事が削除されました(甲第2号証)。しかし、そこには、「お二人の方から抗議がありました。…に関しては、確かに私の非があると思いました。」と記載されていましたが、私の名前はどこにも出ておりませんでしたし、どの部分が間違っていたのか、なぜ間違いをしたのかといった点について、真摯な反省の姿勢は全く見られませんでした。せめて、私の抗議文を全文掲載してもらえれば、少しは私の名誉も回復されたのですが、それも行われませんでした。
5.提訴に至った理由
(1)上記の記載からも分かるように、本件記事は事実に反するのみならず、学者としての私の名誉を著しく毀損するものです。その後も、複数の知人の研究者から、本件記事を見て心配された問い合わせがありました。中西氏のホームページは、化学物質間題について関心がある多くの人々がアクセスしておられるようです。私のことを知っている人は、「記事の内容は本当か」とか、「中西氏から貶められているぞ」といった質問や指摘をしてくれますが、私のことを直接知らない人は、私のことを「いい加減な科学者」と誤解されているのではないかと思います。
既述のとおり、仮に意図的でないにせよ、事前に十分事実を確認することなく、誤った決めつけをホームページ上で一方的に公表するのは、「言論の暴力」に他なりません。およそ「科学者」の名に値しない行為と言わざるを得ません。そのような「言論の暴力」によって、私は、名誉を著しく損なわれ、多大な精神的苦痛を蒙りました。
さらに、中西氏は、表面上は「謝罪」を口にしながらも、私に対する名誉回復や慰謝の措置を何ら講じることなく、到底心から反省しているとは思えない態度を取り続けていました。そこで、私は、自らの名誉回復と慰謝を求めて提訴する決意をしたのです。
(2)平成17年3月13目頃になって、中西氏から、例の私が示した新聞記事を探したが見つからないので、コピーを送ってくれないかという、極めて厚かましい申し入れがありました(甲第7号証の3)。新聞記事については、1月17日付メールで京都新聞の2004年8月28目夕刊トップ記事である旨を既に回答していましたので、今頃になって記事のコピーを送れなどというのは失礼な話で、このことからも、中西氏に真摯な反省の気持ちなどないことがわかりました。そこで、私は、「大変不愉快な思いをしております。名誉毀損で提訴する準備をしています」と返答しました。すると、中西氏から、「名誉毀損ですか?できればやめて頂きたいです。」という返答はありましたが、相変わらず、私の名誉回復や私への慰謝について全く言及されておりませんでした。私は、やはり中西氏には真摯な反省の態度がないと思い、本件提訴に至ったものです。
6.本件訴訟における中西氏の主張について
(1)中西氏は、学術的見地から、私のナノ粒子の有害性についての問題提起のあり方を批判したもので、学問の自由・表現の自由の見地からして、そのような批判は自由であると主張しています。
しかし、前にも申し上げましたが、私のプレゼンテーションは、確かに新聞記事を見せはしましたが、それは、それに基づいてナノ粒子の有害性を主張するというものではなく、私の独自のダイオキシン‐インディルビンに関する環境ホルモン研究成果から、ナノ粒子の有害性との共通性に言及し、その際参考記事として提示したものにすぎません。このことは、私のプレゼンテーションをちゃんと闇いていただいていたら、容易にわかったはずです。ですから、中西氏の答弁書の主張も、本件記事と同じく、前提たる事実に誤りがある的外れの主張と言わざるを得ません。
(2)もちろん、学問の場において、学問的見地から相互に批判することは当然のことです。しかし、それが、一方的な誤った前提事実に基づいて行われた場合にも、批判の自由があるといえるでしょうか。前提事実の誤りに気づかずに批判記事を読んだ読者は、批判された側に非があると思い込んでしまうのではないでしょうか。その批判が、本件の場合のように、原論文にあたらずに、また専門家としての判断も加えずに、新聞記事をそのまま掲げて問題であると発言したというような場合、読者は批判された学者を、「いい加減な科学者」「専門家に値しない科学者」と思うのではないでしょうか。当然のことですが、そのような一方的批判によって、当該名指しをされた学者の名誉は著しく毀損されるでしょう。しかも、そのような一方的な批判が、反論の機会の保障が全くない本件のような個人のホームページ上でなされた場合には、批判者の名誉は毀損されたままで、本人には回復する術がありません。このようなやり方が許されるとしたら、それは到底、学問の自由・言論の自由といえるものではなく、むしろ、学問に名を借りた言葉の暴力以外の何物でもありません。
私は、単に中西氏から批判されたことに憤慨しているのではありません。このような前提事実を誤った一方的な批判を、一方的な表現媒体であるホームページ上で行い、他者の名誉を毀損しておきながら、真摯な反省をしようとせず、「学問の自由」だといってはばからない中西氏の姿勢を問題にしているのです。それはおよそ「学問的批判」と呼べるものではありません。「学問の自由」の名の下に自らの不正を隠蔽し、反省しようともしない中西氏の「科学者」としての良心を疑わざるを得ません。
(3)もし、真に、学問の発展を考えての批判であるならば、中西氏は、なぜ、パネルディスカッションの場で堂々と指摘しなかったのでしょうか。もし仮に、座長であるが故にできなかったというのであれば、個人的にメールか書簡で批判されればよかったはずです。そうすれば、私も即座に反論できたのです。
ホームページという一方的な表現媒体で他者を批判するのであれば、少なくとも前提事実に誤りがないかどうか、直接本人に確認を求めるのが、科学者として、いや人間として当然の姿勢ではないでしょうか。
中西氏のいう、批判の自由、学問の自由は、自己責任を回避するための見苦しい弁解のように私には思えます。中西氏は、私の抗議メールを受けて、一度は形式的ではありますが、謝罪されました。しかし、今回の答弁書では一切謝罪の姿勢はうかがわれません。いったい、中西氏は、何に対して謝罪されたのでしょうか?今回の答弁書の主張は、その謝罪を撤回されるということでしょうか?なぜ、このように態度を変えられたのでしょうか?自らの言動に恥じるところがないのであれば、明確にお答えいただきたいと思います。
最近、ホームページという媒体を用いて、一方的に個人攻撃をする例がしばしば見受けられます。「科学者」といわれる人々の間でも、このような個人に対する悪口や中傷が行われているのは極めて残念に思います。ホームページ上での批判は、きちんとした倫理観を持っていないと、本件のような「言葉の暴力」につながりかねません。科学者であるならば、少なくとも誤った事実に基づく一方的な批判を行うことがないよう、十分事実の確認に努めていただきたいと思います。真に学問の発展を望むのであれば、本件ホームページのような一方的な表現の場ではなく、少なくとも反論の機会の保障がされた双方向のコミュニケーションの場での議論や、直接的コミュニケーションを心がけていただきたいものです。自己への批判は防衛しておきながら、一方的に他者だけを批判するというやり方は、いかにもアンフェアーで、到底、健全なる科学の発展に寄与するものとは思えません。
7 結論
以上のとおりですので、裁判所におかれましては、すみやかに私の名誉回復等の措置を命じていただきますよう願っております。科学者の言論の品位なき言葉の暴力の横行を許さず、司法としての厳正な裁きを示していただきたいと、心より期待しております。
以上