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甲23号証

甲23号証(原告:松井氏提出書類)

本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。

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甲第23号証

陳 述 書

平成18年11月10日
                **市*****
                有薗幸司

1 私は、熊本県立大学環境共生学部・食環境安全性学講座の教授の職にあります。
薬学が専門で、これまでの経歴は以下のとおりです。
     学       歴
昭和52年3月 第一薬科大学製薬学科卒業
昭和52年4月 長崎大学大学院薬学研究科(修士課程)薬学専攻入学
昭和53年7月 薬剤師(薬剤師登録番号第170907号)
昭和54年3月 長崎大学大学院薬学研究科(修士課程)薬学専攻修了(薬学修士)
昭和61年1月 薬学博士(九州大学薬博乙第289号)

    職        歴
昭和54年4月 長崎大学薬学部衛生化学教室助手(昭和60年9月まで)
昭和58年4月 文部省内地研究員(九州大学理学部、昭和59年2月まで)
昭和60年6月 長崎大学薬学部講師(平成5年3月まで)
昭和61年3月 長崎大学大学院薬学研究科講師 衛生化学
昭和61年12月 文部省在外研究員(米国サウスダコタ大学医学部昭和62年9月で)
平成2年3月 博士研究員(米国サウスダコタ大学医学部、平成3年8月まで)
平成5年3月 長崎大学薬学部衛生化学教室助教授(平成9年10月まで)
平成9年10月 長崎大学環境科学部助教授(平成11年3月まで)
平成11年4月 熊本県立大学環境共生学部教授
平成15年4月 熊本県立大学大学院環境共生学研究科教授(現在に至る)

2 私も平成16年12月17日に名古屋で開催された環境省主催の「第7回内分泌攪乱化学物質問題に開する国際シンポジウム」第6セッション「リスクコミュニケーション」に参加し、パネリストの発言を聞き、私自身会場発言をしました。
 私の発言は、乙第5号証の2「当日のテープ起こし」36頁の「さきほどのマダイの件で、当事者なので一つだけ述べさせていただきます。マダイのデータというのは、ただ単に1個というのではなく、数百に及ぶ養殖のマダイを調べまして、その中に、精巣卵があったということで、雌雄同体とは全く別の話です。雌雄同体に関しても、後日、二百という実験からデータを出しています。」という部分です。
 これはパネリストの一人である作家・ジャーナリストの日垣隆さんが、『この問題に対してNHKの果たした役割は非常に大きいと思います。環境ホルモンについて4年聞で10本の番組を作りましたが、実際オスとメスの同一体はないかと一生懸命探すわけです。なかなかないのですが、長崎大学にやっとあったということで、行って精子激減という番組を作るわけです。マダイとかブダイはもともと性転換をしょっちゅう行っているわけで、環境ホルモンと関係なく起きることなのに、恐怖心を煽る番組を作る。実際、番組を作るディレクターが賭に出て、一種類だけ見つかってストックに持ってきて、自分たちは掛けに勝ったギャンブラーとNHK出版の自分の本の中で書いているわけです。」という誤った発言をしたのに対して修正したものです.
 なお、私が研究対象にしたマダイは、生後3年以上の成熟魚ではオスとメスの性は確定して、しょっちゅう性転換を起こすような魚ではありません。だからこそ環境ホルモンの影響を観察できると思って生後3年以上の成熟マダイを対象に選んだのです,

3 このセッションにはこれまで環境ホルモン問題に関わってきた多くの研究者が聴衆として参加しています。中には松井氏の友人、同僚的な人もあれば、後輩や、プロジェクトの一員ではあっても松井氏を直接知らない人などもいたはずです。

4 このセッションで座長を努めた中西準子氏は、松井氏が研究代表者だった文部科学省科学研究補助金特定領域研究(1)「内分泌撹乱物質の環境リスク」の公募研究の審査委員(主査)をしており、私もこの特定領域研究に加わって研究を続けてきました。この研究は9億円もの補助金を使った大変重要なものでした。
 中西氏は、ダイオキシン問題は空騒ぎだったという文章も書き、また環境ホルモン問題についても、マスコミや一部の学者が誤った情報を流したなどと主張しておられる方ですが、それでも上記研究の審査委員(主査)を勤められたのです。私はその中西氏が、上記セッションのはじめに「私自身は環境ホルモンやダイオキシンなど内分泌攪乱化学物質に関してそれほど詳しい人問ではありませんし一一」と述ベセッションを始められたので、おかしな発言をするものだと違和感を覚えて』いました。

5 セッションの中で松井氏はただ一人の環境ホルモン問題専門家として、リスクコミュニケーションの前提となるリスクについてご自分の研究成果を発表しました。特に松井氏の研究室が解明したインディルビン、インディゴの代謝についての説明は非常に興味深いものでした。会場でも、もともと環境ホルモンの研究者向けの国際会議ですので環境ホルモン問題についてバックグラウンドのある参加者(研究者)には、松井氏の発表はスムースに飲み込まれたはずです。

6 しかしながら後日中西氏が、自身のホームページで、松井氏が環境ホルモン問題は終わったと発言したこと、オリジナルの論文も読まず、新聞記事だけでナノ問題を提起したと非難しているのを知り、これは大変なことだと思いました。その根拠を以下にまとめてみます。

1) まず松井氏の当日の発言内容と異なっています。松井氏は、ダイオキシンとナノ粒子はともに細胞外へ排出されにくいという共通点を指摘し、環境ホルモンの研究をナノ粒子の研究にも生かそうと思っているとの趣旨を発言されました。「環境ホルモン問題は終わった、次はナノ粒子の有害性を問題にしよう」と発言されたのではありません。
2) 松井氏は、セッションの発言中で、環境ホルモン研究は人工的化学物質の問題を提起しながら、実は、いままでわかっていなかった生命の秘密を同時に解明してきている、今後も環境ホルモン問題の研究を続けてゆくべきだと主張されています。最後に述べた「インディルビン研究及びダイオキシンを中心とした環境ホルモン研究で得られた成果を生かす(松井氏の)次のチャレンジはナノ粒子です。」という趣旨の一言を「環境ホルモン問題は終わった。」という趣旨だと理解したのは問題です。松井氏の発言を全部理解すれば、松井氏がみつけたインディルビン・インディゴ研究の成果をナノ研究へも応用できるという趣旨であることは当然理解できたはずです。
3) 松井氏は、前記公募研究グループのリーダーで、この研究に加わった研究者は総数300人位に昇ります。中には松井氏を直接知らない人もいます。こういう人達は、役に立たないと言われ続け、研究費がなかなか出ない地味な基礎研究をコツコツ続けてきたのです。そしてこのグループ研究に参加して、自分たちの基礎研究が環境ホルモン問題の解明に役立ったということを知り、喜びと誇りを感じていたはずです。
 そういう人たちが、中西氏のホームページを読んでその内容を信じたら、「松井氏は何という人だ。9億円もらって自分たちを利用しただけなのか!時流に乗って金がつく間だけやり、金がつかなくなったらすぐ次の問題に移ってしまう人なのか!」と思うことは明らかです。また「松井氏が原論文も読まず、新聞報道だけで問題提起するような底の浅い人なのか!」と思い・松井氏に対する信頼感、尊敬の念を失い、自分たちの研究に対する熱意さえ失うことになりかねません。
4) このセッションは、最初の中西氏の発言にあるように「環境ホルモン問題はかなり大きな失敗があったケース」と位置づけられた偏った構成になっており、その中で松井氏は、ただ1人、環境ホルモン問題は間違いではないという立場を堅持し、松井氏がみつけたインディルビン・インディゴ研究を熱心に説明していました。
5) 今、世の中では、環境ホルモン問題は重大だと主張する人たちと、環境ホルモン問題は空騒ぎだったという人たちが対立し、後者が前者を追い払おうとしている状況にあります。環境ホルモン問題は間違いだったのか、もう終わったのかというのは、学問的議論の対象だと思いますから、お二人が議論をされるのは必要で重要なことですが、まだ終わっていないと発言しているグループのリーダー的な存在である松井氏が、「環境ホルモンは終わった。これからはナノだ。」と発言したとホームページに明言されたのは問題です。
 松井氏が環境ホルモン空騒ぎ派に鞍替えしたなどと思われたら、若い研究者に対し何も発言できなくなります。
 松井氏が新聞記事を示したことは事実ですが、ナノ粒子をきちんと管理しないと新たな環境汚染を引き起こす、だからインディルビン・インディゴ研究の成果を利用して、これからナノ粒子の評価にチャレンジしようと思っているとの趣旨で発言されたと思います。ナノ粒子の科学的評価が必要であることは中西民にも異論はないはずです。当日、松井氏は原著書論文の趣旨を説明する時間的ゆとりがなかった可能性もあります(実際にナノ粒子のところは時間切れで終わっていると思います)から、松井氏が新聞記事だけでナノの有害性を主張したととられる趣旨の文章をホームページに記載したのは不適切であったと思います。
 中西氏は、ホームページ上の発言を撤回し、松井氏に謝罪すべきだと思います。