準備書面(4)(2006/10/17)
原告側準備書面
本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。
丸に数字は文字化けするので、1)、2)などに置き換えた。
赤字で示した「平成16年」は、「平成18年」が正しいと思われるが、紙の準備書面でもそうなっているのでそのままとした(次回あたりに訂正されるかも)。
平成17年(ワ)第914号・平成17年(ワ〉第3375号反訴
原告(反訴被告) 松 井 三 郎
被告(反訴原告) 中 西 準 子
準備書面(4)
2006年10月17日
横浜地方裁判所 第9民事部合議係 御中
原告(反訴被告)訴訟代理人弁護士 中下 裕子
同 弁護士 神山美智子
同 弁護士 長沢美智子
同 弁護士 中村 晶子
記
1 摘示事実について
摘示事実についての裁判所からの釈明に対し、原告は、訴状第2請求の原因2項(2)記載の事実を基本としつつ、以下のとおり主張を整理する。
(1)訴状第2請求の原因2項(1)1)記載の記事の摘示事実
環境ホルモン研究を推進し、そのリスクを主張してきた研究者であり、環境ホルモンのリスクコミュニケーションの失敗に責任のある学者の一人である原告が、本件国際シンポジウムにおいて、「環境ホルモン問題は終わった、今後社会が関心をもつべきテーマは、もはや環境ホルモンではなく、ナノ粒子の有害性である」との趣旨で、新聞記事のスライドを見せて「つぎはナノです」と発言したこと。
(2)同2)記載の記事の摘示事実
原告は、本件国際シンポジウムにおいて、新聞記事のスライドを見せてナノ粒子の有害性について間題提起したが、その問題提起の仕方は、原論文も読まずに又は十分に吟味することなく、ただ新聞記事に書かれていることをそのまま主張するという、およそ専門家にあるまじき、いかにもお粗末なものであったこと。
なお、原告準備書面(3)2項の主張は、本件記事を、被告ホームベージの読者の普通の注意と読み方とを基準として表現方法等も検討したうえ前後の文脈等の事情を総合的に考慮し、間接的ないし椀曲的・黙示的に主張していると見られる事実を補って上記の摘示事実の意味するところをやや詳しく述べた主張として維持する。
2 被告の「学問的批判の自由」の主張について
(1)これまで、「学問的批判の自由」をめぐる被告の主張の法的位置付けが不明であったが、平成16年8月25目の期日における裁判所の釈明に対し、被告は、「正当業務行為として違法性が阻却される」との趣旨であると主張した。
原告は、この主張を争う。
(2)被告の本件ホームページの記事は、原告に対する単なる誹誘中傷にすぎないものであり、学問的批判などというものではないことは既に述べたとおりである(原告準備書面(1)第1)。
原告は本シンポジウムにおいて、「環境ホルモンはまだまだ重大な学問領域であって、これまでの研究で分からないことが分かった段階である」と述べたが、これに対し被告が、反対の立揚からフェアな方法で学問的批判をすることは自由である。原告は、これを妨げようとか止めさせようなどとはまったく考えていない。
また、仮に本当に原告のプレゼンテーションの仕方に問題があったというのであれば、それに対する本来の学問的批判は甘んじて受けるつもりである。
しかし、被告の本件記事の記載は、学問的批判などではない。学問的批判というなら、原告の発表内容を正しく理解したうえで、その発表内容を学問的裏付けをもって批判するのでなければならない。また、研究発表の仕方についての学術的見地からの批判は、発表者の発表内容を正しく把握したうえで、発表の仕方がそのような内容を発表するための方法として適切でない場合に、はじめて成り立つものである.
ところが、被告の本件記事は、原告が言ってもいないこと(「環境ホルモンは終わった。今度はナノ粒子の有害性を問題にしよう。」)を言ったと曲解してそれを非難し、さらに原告がしたプレゼンテーションの趣旨を不注意にも誤解したうえ、原告が用いた新聞記事を見逃し、後にそれを確かめることもせずに、原告の発表方法が被告が誤解した趣旨の発表としては不適切であると一方的に非難しているにすぎない。
これを学問的批判などと呼ぶようでは、「学問の進展など望むべくもない」し、「およそ学者・研究者としての立場をわきまえない」(答弁書第3.1項)主張であるといわざるを得ない.
以上