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証人調書(2006/10/27)

証人調書 

本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。

 2006年10月27日の証人調書(主尋問と反対尋問について、録音を元に裁判所が整理したもの)


証人等調書 
本人
事件の表示 平成17年(ワ)第914号、平成17年(ワ)第3375号
期日 平成18年10月27日1時30分
氏名 松井三郎
年齢 62歳
住所 ***************
宣誓その他の状況 裁判長(官)は、宣誓の趣旨を説明し、本人が虚偽の陳述をした場合の制裁を告げ、別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
陳述の要領 別紙反訳書記載のとおり

宣誓 良心に従って真実を述べ,何事も隠さず,偽りを述べないことを誓います。
氏名 松井三郎


原告(反訴被告)代理人(中下)
甲第9号証及び甲第22号証を示す
中下 陳述書ですけれども,これは原告(反訴被告)が作成されたものに間違いないですか。

松井 間違いございません。

中下 内容も間違いないですね。

松井 ございません。

中下 本件シンポジウムについて先生がパネリストとして出られるということで,その依頼があったのは,いつごろ,どなたからでしょうか。

松井 2004年の9月ごろだったと記憶しておりますが,私の同僚の内山巌雄教授から話がございました。

中下 どのような趣旨の依頼だったんですか。

松井 環境ホルモンの国際シンポジウムが開催されて,そのときにリスクコミュニケーションに関するセッションがあると。その中でパネリストとして参加してほしいと,そういうご要望でした。

中下 パネリストのほかのメンバーの方々というのは,どういう方だというご説明がありましたか。

松井 木下先生,吉川先生,お二人とも大学の先生ですね。それから,ジャーナリストの日垣さん,それから評論家の山形さんでありました。そして私が呼ばれているということでありました。

中下 その中で,いわゆる環境ホルモンの研究の専門家というのは,どなたですか。

松井 環境ホルモンの研究をやっているのは,私1人でありました。

中下 何か先生の依頼の中で,当初は環境ホルモンの専門家がメンバーの中にいなかったという話はなかったですか。

松井 そういう話もございました。それで先生は,この環境ホルモン問題というのが非常に科学的に難しい問題でもあるし,一方で社会的に当時,大変取り上げられていた問題でありましたから,このリスクコミュニケーションのセッションをする場合には,だれか1人環境ホルモンの研究者が入らないといいセッションにならないだろうということでありました。

中下 それで先生が引き受けられたということになるわけですね。ちょっともとに戻りますが,先ほどリスクコミュニ・ケーションに関するセッションという話があったんですけれども,リスクとかリスクコミュニケーションについてちょっと簡単にご説明いただけるとありがたいんですけど,まずリスクとは何ですか。

松井 リスクというのは,事故,あるいは災害等,悪い出来事が起こる蓋然性というのが多分リスクという意味だと思います。

乙第11号証を示す
中下 8ぺ一ジの12に,環境リスクマネージメントハンドブックの中でということで,注で中西さんのほうが記載されてるんですけれども,この記載内容で,大体リスクコミュニケーションと書かれているわけですけれども,リスクコミュニケーションというのはそういう内容だということでよろしいでしょうか。

松井 はい。私も大体この内容で理解しております。

中下 先ほどの話の中で,環境ホルモン問題について,いろいろ社会的な問題になっていたというふうな話がありましたけれども,当時,その問題をめぐっての大きな意見対立があったんでしょうか。

松井 当時,環境ホルモン研究,あるいは環境ホルモン問題に対して,それは大した問題ではないという,いわゆる巻き返しのそういう意見が出ておりました。で,もう一方,環境ホルモン問題というのは未解明な問題が多くて,それで引き続きこれは研究していく必要があると,こういう立場で意見を言われる方,2つの対立が当時進行していたと思います。

中下 原告は,そのどちらの立場ですか。

松井 私はその後者のほうの立場でありまして,それで環境ホルモンの研究をすればするほどいろんな問題が,つまり科学的に未解明な問題がたくさん出てまいりまして,これは引き続き研究する必要があると,そういう立場でありました。

中下 被告の中西さんは,どうでしょうか。

松井 中西さんは逆の立場でありまして,環境ホルモン問題というのは,騒ぎ過ぎであると。研究そのものに対して否定的な,そういうご意見を言っておられる立場の代表的な人です。

中下 先ほどパネリストのメンバーのご紹介がありましたけれども,メンバーの中でのそれぞれの意見というのは,どういう意見を持っておられる方々でしたでしょうか。

松井 木下先生,吉川先生は社会科学者でして,環境リスクにかかわらずリスク全般を社会科学的に研究されてる先生方ですね。それに対して日垣さん,あるいは山形さんというのは,既に環境ホルモンという件は空騒ぎであるとか,あるいは騒ぎ過ぎであるとか,そういう論説をいろんなところに,書物,あるいは雑誌等に,あるいは新聞等に投稿されている方です。

中下 そうしますと,環境ホルモン問題は極めて重大な問題で,今後も研究を継続していくべきであるということを明確におっしゃっておられるのは,今のパネリストのメンバーの中では原告だけだったんでしょうか。

松井 私1人です。

中下 そうすると,ある意味でパネリストの中でかなり孤軍奮闘的なお立場を引き受けさせられたわけですけれども,引き受けられた理由というのはどういうことだったんでしょうか。

松井 これは先生のほうからのご要望のときに,このリスクコミュニケーションのセッションそのものが,環境ホルモン問題は騒ぎ過ぎで,それでコミュニケーションを失敗していると,そういうことを前提にこのセッションを開いて,何らかの決着をつけるというのか,そういうような動きがあるということを聞いておりました。

中下 それで,先生がどうして引き受けられたんでしょうか。

松井 私の立場は,環境ホルモンについての研究をその当時鋭意やっておりましたが,いろんな未解明の問題が出てまいりまして,ですから,リスクコミュニケーションをするとしましても,そもそも環境ホルモンの研究がどういう状態で,その難しい,あるいは分かりにくいところがどういう意味のリスクなのかという,こういうことをお伝えしないと,結局はそのリスクコミュニケーションのセッションにおいて,環境ホルモンの研究抜きで,そもそもセッションが構成されること自体が非常に不十分だと思いましたので,私はご要望に基づいてセッションのパネリストになったわけです。

中下 それで引き受けられて,事前にアブストラクトをめぐって被告(反訴原告)との間でやりとりがありましたね。

松井 はい。

中下 被告(反訴原告)から,メールでそのアブストラクトについてもう少し変更して考え直してほしいというような依頼があったということで,それを知って,原告(反訴被告)としてはどう思いましたか。

松井 私が最初に作ってお送りしたアブストラクトに対して大変失礼なメールが来まして,それで,私が準備したアブストラクトの内容ではまるで私の名前が傷がつくかのような,そういうような失礼なメールだったんですね。しかし,中西氏は座長を務められますので,限られた時間内でセッションを成功させるには,座長が指摘されるような形で有効に私は発言する必要があると思いましたので,私の発言,論点を絞って再度準備すると,そのように申しました。

甲第4号証の3を示す
中下 これが被告(反訴原告)から送られてきたメールですけれども,そこに,この以下のどれか,またはすべてについて,ご意見を述べていただくのがいいのではないかと思っておりますということで,6つの論点の指摘がありますけれども,この中で先生はどれについて言及しようというふうにお考えだったですか。

松井 1から6まで全部カバーすることは,ちょっと時間上難しかったので,私は立場を考えて,第3番目の内分泌撹乱物質だからこその問題点は何か,4番目の学者として何が大事か,何をすべきかと,この2点に絞って発言の準備をいたしました。

中下 このセッションの当日の先生の発表は,今お話になった3番目と4番目の論について言及をされたわけでしょうか。

松井 そうです。

中下 被告は陳述書の中で,当日の先生の発表が,事前のアブストラクトをめぐるメールのやりとりが全く生かされてなかったというふうに記載しておられるんですけれども,これは事実ですか。

松井 それは私にとっては心外でありまして,つまり中西さんが指摘してきた第3番目と第4番目についてちゃんと準備をしまして,第3番目については,私自身が研究をやっている自分の研究に基づいた内容をプレゼンテーションで説明しました。それから,第4番目についても,リスクユミュニケーションという立場から,科学者がどういう立場に立つべきかということを述べました。

中下 当日の発言なんですけれども,2回に分けて行っておられますか。

松井 そうです。

甲第8号証を示す
中下 これは,どういうあれですか。

松井 下段のほうは,スライドを使ってプレゼンテーションをやっておりますから,スライドの要点,それをまとめさせていただいたということです。

中下 当日,そのような趣旨で発言されたというふうな先生の理解だったですか。

松井 そうです,趣旨です。

中下 甲8号証の前半で使われたのは,第2図から何図までですか。

松井 13図までが前半ですね。それから以降,14図が後半,2回目の発表のときに使いました。

中下 先生の説明,乙5の2のテープの起こしを読んでも,専門用語が非常に多くて分かりにくいものですから,ちょっとここで分かりやすく説明していただきたいんですけど,ただ,当日は,これは専門家向けセッションだったんでしようか。

松井 そうです。これは大半の方が専門家ですから,しかも15分という非常に限られた時間ですから,言葉ではしゃべらなくても,図で示してぱっと読んでいただけましたらすぐ理解できると。専門家の場合は,大体そうやってやっております。

甲第8号証の第2図を示す
中下 これは,どういうものですか。

松井 これは,当時最も進んだ実験手法でマイクロアレーという,この手法を用いまして,それでこの図の中にある一点一点が1つの遺伝子が動いてる,動いてないことが見れる,そういう技術手法です。この技術手法を使いますと,色が赤くなればなるほど,その遺伝子が活発に動いてるということが分かるわけです。

甲第8号証の第3図を示す
中下 これは,どういう図ですか。

松井 この図は,先ほどのマイクロアレーの結果をクラスター分析,あるいは系統図としてもう一度まとめ直したわけです。そうしますと,赤い色の線,これは活発に動いている遺伝子の種類,黄色がニュートラル,動いてない,青い色は逆にその遺伝子の活動が抑え込まれているという,そういう色を示してます。

甲第8号証の第4図を示す
中下 これは,どういう趣旨で示された図ですか。

松井 これは,いろんな物質が先ほどのマイクロアレーで遺伝子を動かしておりますが,動かしている遺伝子の領域図でありまして,重なってる部分と重なってない部分があると,そういうことが分かります。

中下 ちょっと数字と記号を教えていただきたいんですが,E2とか,あるいはこれは赤いところに,341という数字が書いている左上のほうにE2という表示があります。それから,黄色い図のところに下にBPAというのがありますけど,こういう記号は何をあらわしていますか。

松井 E2というのは,これは正真正銘の女性ホルモン,エストラジオールですね。それが341種類の遺伝子を動かしてると。それに対してBPAは,これビスフェノールAで,これを動かしている遺伝子は62あると。そうしますと,正真正銘の遺伝子E2の領域と,それからビスフェノールAが重なっている領域は45の遺伝子,この部分は重なっているということが分かるわけです。

中下 そうすると,E2とかBPAとかいうのは物質名で,数字は動かす遺伝子の数。

松井 数です。

甲第8号証の第6図ないし第12図を示す
中下 これらの図なんですけれども,これは先生のところの研究室の研究成果を示したものですか。

松井 そうです。

中下 概略で結構ですけど,どういうことを。

松井 これは,ダイオキシンが今のところ最も有害な物質であると。で,ダイオキシンの毒性のメカニズム,ここのところを解明したいと思いました。それで,人はダイオキシンを今でも毎日とっておりますから,うまく排せつされたらば尿に出るだろうと。というわけで,尿中にダイオキシンが出るか,出ないかというのを検出を試みたわけですね。そうすると,出てこなかったということです。かわりに,おもしろい重要な発見となる,インディゴ,インディルビンという物質が尿中に出ているということを我々が世界で初めて発見したんです。

甲第8号証の第7図を示す
中下 ここにインディゴ,インディルビンという物質が書かれているんですけれども,こういう物質が尿の中から出てきたというのは,どういうことを意味してるんですか。

松井 我々のがインディルビン,インディゴを発見する前までは,ダイオキシンなどは細胞の中にあるAhリセプター,Ah受容体というものにくっつくと。ですから,当時はダイオキシンリセプターとか,ダイオキシン受容体と言われていたわけですね。ところが,我々がインディルビン,インディゴを発見しましたことで,本来この受容体が受けとめるべき物質は,インディルビン,インディゴではないかと。ダイオキシン,あるいはその他のAhリセプターが受けとめる,いわゆる多環芳香属という,こういう物質分は,まさに環境ホルモンであって,問違って認識されるんじゃないかと,こういうように。ですから簡単に申しますと,ベンゼン環という亀の甲の形をした物質がございますね。これが2つ,3つ,4つ,5つというたくさんのベンゼン環で構成される物質を総称して多環芳香属といっております。
  
中下 先ほどAhリセプターというふうに言われましたけれども,Ahリセプターというのは,もともとどういう機能があるかということは分かっていたんでしょうか。

松井 分かってなかったですね。分かってなくて,ダイオキシンリセプターという仮の名前を使っていたわけです。それに対して私どもが,インディルビン,インディゴのほうが,インディルビンのほうがダイオキシンは50倍強い結合能力を持ってる。それからインディルビン,インディゴは,日常の食べ物の中から毎日作ってるものであると。ですから,本来はこのインディゴ,インディルビンを排除するために,Ahリセプターというのが,人間が動物の進化の過程で獲得したものじゃないかと,このように私どもは仮説をしております。

甲第8号証の第8図を示す
中下 ここに,偽の鍵ダイオキシン類と,本物の鍵インディゴ,インディルビンというふうになって,松井先生たちの研究者のお名前が書いてありますけれども,今おっしゃっていたような仮説を先生のほうの研究室で発表されたということなんでしょうか。

松井 そうです,はい。

中下 つまり,本物はインディゴ,インディルビンとAhがくっつくものだったけれども,それを間違えてダイオキシンや多環芳香属がくっついてるんじゃないかということなんですよね。

松井 そうです。

中下 先生のお話だと,インディゴとインディルビンもAhRに結合する,それからダイオキシンも結合する,多環芳香属類も結合すると,その3種類とも結合するわけですけれども,それぞれの結合の仕方とか,あるいはその後の運命とかに違いがあるんでしょうか。

松井 そうです。まさにその違いがあるからこそ,そこにダイオキシンの持っている毒性のメカニズムが見えてきたということです。

中下 一言で言うと,インディゴ,インディルビンはどうなるんですか。

松井 インディゴ,インディルビンはAhリセプターに受けとめられた後,その後たくさんの遺伝子を動かしますけども,その中には酸化をする酵素群を動かす,あるいは還元,あるいは抱合体を形成する遺伝子群を動かして,それ自身は最後に抱合体になって,それでおしっこに出てしまうと。ですから,速やかに排除されますから,毒性の出方が非常に少ないというように分かると。それに対してダイオキシンは,同じメカニズムを通っていってもそれ自身が今度は酸化を受けない,還元を受けない。ですから,抱合体にもならない。ですから,細胞内に長くとどまって,細胞内においてその遺伝子群を不必要に動かすと。そして,さまざまな毒性機構を発揮するのではないかということが,私どもの研究で見えてきたわけです。

中下 ベンゾ(a)ピレンについてはどうでしょうか。

松井 ベンゾ(a)ピレンは,これはちょっとまた違ったメカニズムが我々の研究で分かってまいりまして。

甲第8号証の第12図を示す
中下 この図が,そのメカニズムでしょうか。

松井 そうです。

中下 これを簡単に説明していただけますか。

松井 ベンゾ(a)ピレンというのは,発がん性物質として最も有名なものでありまして,現在でも環境汚染の重要な汚染の一つです。例えばたばこの中にも含まれております。これが細胞の中に入ってまいりますと,Ahリセプターで受けとめられるんでありますけども,その後,遺伝子群が動くわけですね。その中で最初のCYP1A1という遺伝子,これは酸化する酵素が動かされて,それでベンゾピレン自身に働かけて,ベンゾピレン自身が酸化を受けるわけですね。その後,結局一つは変化を受けたベンゾピレンが直接,今度はDNA遺伝子の塩基部分に結合して,それでもって染色体が切れるという,そういうような特性メカニズムがあります。

中下 今お話の中で,CYP1A1とおっしゃったのは,図の中の真ん中よりちょっと左側のあたりにCYP1A1と赤字で書いてありますけれども,これがその酵素ですか。

松井 酵素です,はい。

中下 それでちょっと図の右側のほうに,上のほうから付加対形成,それから括弧で囲って酸化的損傷,その下に矢印があって,抱合体形成というふうに矢印に字が書かれているんですけれども,今のお話だと,いろいろ仮定はあるんでしょうけれども,最終的にベンゾ(a)ピレンの場合は,今示した右側の矢印のところですけれども,そういう結果になるということなんでしょうか。

松井 そうです。ベンゾピレンの場合は非常に複雑でして,キノン体を作って,それが遺伝子に結合する,付加体を作るという,こういう付加体ができますと,これはその後,突然変異につながるという,そういう危険性を持ってますね。それから,ベンゾピレンがキノンまでいく過程で,酸化を,あるいは還元を行ったり来たりするんですけれども,   その過程で過酸化物,あるいは活性酸素,それを生み出して,その活性酸素自身が今度は遺伝子に結合する,これは酸化的損傷というわけですね。これらは毒性のまさにメカニズムです。ところが,うまいぐあいに抱合体形成のほうにいってもらえば,このベンゾピレンは,抱合体の形をとっておしっこで出てくるわけですね。これが解毒機構です。

中下 そうすると,ベンゾ(a)ピレンの場合は,ダイオキシンと違って抱合体を形成して尿に排せつされる。つまり,解毒される部分もあるけれども,付加体形成や,あるいは酸化的損傷,つまり活性酸素種を生み出すということによっていろんな毒性を与えるということ,両面あるということなんでしょうか。

松井 そうです。

中下 さっき活性酸素種とおっしゃったんですけど,これはどういうものですか。

松井 活性酸素種は,今現在3種類が分かっておりますけども,要するに酸素ですね。酸素がエレクトロンを獲得して,それで活性化されていると。あるいは過酸化水素のようなものとか,あるいはOHラジカル,これもそうなんです。大体,今のところは3種類を活性酸素種と呼んでおります。

中下 それはどういう悪いことをするんですか。

松井 これは。酸化的損傷ということですからDNAそのものに反応を起こして,DNAの塩基に酸化的な付加体を作るという,そういうメカニズムもありますし,それから細胞内においては細胞膜というのがございまして,膜に酸化的な反応を起こして,膜の分子を,特に脂質分子を分解させてしまって膜が破壊されるという悪さをすることもあるだろうし,それからこのCYP1A1等たくさんの酵素群が生み出されますが,その酵素の分子にこの活性酸素種が攻撃をして,場合によっては酵素自身が活動をうまくできなくなると,こういうような毒性の機能も分かってるわけです。

中下 その結果,がんの原因になったり,さまざまな病気の原因になってるというんでしょうか。

松井 がんの原因になる可能性ももちろんありますし,それから例えば年をとる加齢現象ですね。そういうことも考えられます。

中下 今のご説明を聞いていますと,つまりダイオキシンとか,あるいはベンゾ(a)ピレンとかいった環境ホルモン物質と言われているものですけれども,それの毒性の大もとというのは,解毒機構,つまり抱合体を形成して尿に排出されるようなそういうメカニズムを持ち合わせているかとか,あるいはその過程で付加体を形成したり,あるいは酸化的損傷を起こすというようなことが毒性の本質ということなんでしょうか。

松井 という本質がやっと見えてきたわけです。それは環境ホルモンの研究をすることによって,やっと見えてきました。

甲第8号証の第13図を示す
中下 ここで,この京都新聞の記事になるわけなんですが,この記事はなぜ示されたんですか。

松井 この記事は,今申しました毒性のメカニズム,あるいは例えばダイオキシンが細胞から排除できないと,こういう研究の過程で,ナノ粒子の持っている毒性メカニズムの中に共通性があるんではないかと,共通性がどうも疑われると。ですから,環境ホルモンの研究の共通性の一環として,この研究も我々はやる必要があると,そういう意味で,このスライドをお見せしたわけです。

中下 このスライドを見せたときに,先生は,環境ホルモン問題はもう終わったんだ,これから社会が関心を抱くべきテーマはナノ粒子の有害性なんだと,こういう趣旨で発言されましたか。

松井 とんでもありません。そういう趣旨では一切発言しておりません。

中下 どういう趣旨だったですか。

松井 私は,環境ホルモンの研究がまだまだ分かってないものがあるので,この研究を継続する必要があると。その研究の継続過程で,ナノ粒子の問題も共通性の問題として研究していく必要があると,そういう意味でこのスライドをお見せしたわけです。

中下 共通性とおっしゃったんですけれども,その共通性というのは,ナノ粒子の何が共通性があるんですか。

松井 これは,ナノ粒子が細胞の中に入ると,恐らく積極的に細胞の外へ出す解毒機構がどうもなさそうだなと。それからもう一つは,このナノ粒子の持っているすぐれた伝導性,電子伝達性,これはひょっとしたら活性酸素種を生み出す危険性があると,この点で環境ホルモンの問題と共通性があるということなんです。

甲第8号証の第13図を示す
中下 この新聞記事を示されたのは,ここに例えば書かれていますね,ナノ粒子,脳に蓄積とか,こういう記事の中身がありますけれども,ここに書かれている内容を指摘するためにこの新聞記事を示されたんでしょうか。

松井 そうではありません。

中下 じゃ,なぜですか。

松井 これはナノ粒子の持っている本質的な毒性メカニズム,それが環境ホルモンの持っている本質的な毒性メカニズムと共通してるということで私はお見せしたわけです。

中下 そうすると,この新聞記事を示されたのは,ナノ粒子が有害だというこの記事の内容を紹介するということじゃなかったわけですか。

松井 では,ありません。そうじゃありません。

中下 共通性を指摘するためとおっしゃったんだけど,なぜ共通性を指摘するために,この新聞記事を示されたんでしょうか。

松井 リスクコミュニケーションというセッションでありましたから,ですから新聞がこのように取り上げているというのがあって,これも一つの新聞が働きかけているリスクコミュニケーションの一つですから,そういうことも含めて使わせていただきました。

中下 そうすると,ナノ粒子はいろいろ社会的に問題になっているということをある意味で示すというか,そういうことを訴えるために新聞記事を示されたと。

松井 うん,今後,こういう問題が起こるんじゃないかということで。たまたま京都新聞,私,京都に住んでおりますから,京都新聞の夕刊の第1面のこれを示したと。ですから,これはあくまでも私の環境ホルモンの研究との共通性で申しているんであって,この記事が示してる有害性そのものを,私は一切発表のときには使っておりません。

中下 この記事が示しているとおっしゃったんですけど,この記事で紹介されている論文なんですが,この論文は先生は読まれておられますか。

松井 もちろん読んでおります。

中下 これはどういう内容の。簡単で結構ですけれども。

松井 これはオーバドースターというアメリカの研究者が紹介されてる論文,あるいは研究成果ですけれども,この論文の本質部分は,なぜナノ粒子が毒性効果を持つのかというと,これは結局,ナノ粒子によって細胞内において活性酸素種が生まれると。それが毒性のどうも本体的なものだということを示しております。そのことを言っているのは,これは実は日本の医薬品食品衛生研究所の山越先生の論文をオーバドースターがそれを引用して,それを根拠にしております。

中下 このナノ粒子問題なんですけど,その後,先生は科研費の交付を受けておられますか。

松井 受けております。

中下 いつから受けて,どういう研究を始められましたか。

松井 2005年の4月から,科学研究費をいただきましたので研究を今始めております。これはまさにC60,このナノフラーレン,この物質をバクテリアであるとか,あるいは人の細胞であるとかに使いまして,どういうような影響が出るかと,遺伝子に絡む影響が生まれているかということを今,研究をやっております。

中下 先ほど先生が疑問に思っておられた環境ホルモンとの毒性の共通性というのは,今の時点で分かってきてるんでしょうか。

松井 見えてきております。

甲第8号証の第14図ないし第16図を示す
中下 後半部分は,この3つの図を示して発言されましたね。後半部分の発言を簡単にまとめていただけますか。

松井 これは,このリスクコミュニケーションのセッションの中で,科学者がどのようにリスクコミュニケーションをするのかということになります。そして,私がここで申しましたことは,科学者は鋭意研究をして,その結果,社会に報告するわけですけれども,その場合に科学者が間違いを起こす2つのパターンがあると。その2つのパターンについて,この図を使って説明したわけですね。

甲第8号証の第16図を示す
中下 この図を示しながら,ご説明されたんでしょうか。

松井 そうです。

中下 2つの間違いというのは,どういう間違いでしょうか。

松井 科学者は研究した結果,例えばある物質について,有害であるか,有害でないかということを研究します。そうしますと,研究した結果,その物質は有害でありませんでしたという場合と,有害であったという場合,2つに分かれるわけですね。ところがその物質を社会が使ってみて,結果として有害なものが出てきた場合と,出なかった場合という,こういう場合がありますね。ですから,その組み合わせによって,最初は無害だと言ったと,大丈夫ですと。ところが実は,実際にやってみたら有害だったという,こういうような誤りの型,第2ダイプ。それから,最初は有害ですよと研究者が言いましたと。ところが実際に使ってみたら無害だったと,これは誤りが第1タイプと。この2つあるんです。それじゃ科学者が,両方ともとってはいけないんですけども,どちらのほうがよりましかというと,これは間違いの1型をしたほうが,まだ科学者にとっては過ちは認められるだろうと。ですから,今,化学物質の問題については,予防原則ということが重要な概念があって,国際的に置いておりますが,その場合,科学者はとってはならないかもしれないけども,誤りを起こした場合,1型でならば許されるだろうと,そういう説明をいたしました。
  
中下 このセッションは,環境ホルモンに関してリスクコミュニケーションが失敗だったのか,何か問題点があったのかというようなところが主たる議論の対象だったと思うんですけれども,その点については,先生のお考えはどのように説明されましたか。

松井 私は,このプレゼンテーションの1回目で,先ほど申しましたようにダイオキシンの問題とか申しましたように,分かってないことが余りにも多過ぎると。ですから,その段階で早々に結論を出してしまって,これは問題はなかったんだというのは,これはいかがなものかというような,その立場で私は発言をしました。

中下 そのセッションを通じてですけど,先生は,環境ホルモンは終わったという趣旨で発言をしたことがありますか。

松井 一切ございません。

中下 先生が,前半,後半について発言をされたわけですけども,それについて,被告やパネリストのほかの方々から,何か反論がありましたか。

松井 ございませんでした。

甲第1号証を示す
中下 本件ホームページの記事のことについてですが,この記事を先生が最初に読まれたのはいつですか。

松井 1月の17日だったと思うんですけども。

中下 どういう経過から,この記事を読むようになりましたか。

松井 私は中西さんのホームページをそれまで一切読んだことなかったので,ホームページでこういうことをおっしゃってるとは全く知りませんでした。私の知人から,こういうホームページがあるよということをメールでいただいたので,それで初めて開いたわけです。

中下 読まれて,どう思われましたか。

松井 私の発言してる事実と違うことで記事にされていると。大変,私,驚きまして,それで憤慨しました。それで,これは非常に困ったと思いました。

中下 それで,どうなさいましたか。

松井 それで,早速,中西さんに抗議のメール,それを送りました。

甲第3号証を示す
中下 これが抗議メールでしょうか。

松井 そうです。

中下 このメールは,被告(反訴原告)以外にも送られましたか。

松井 はい。環境ホルモン学会で私の知人の方々にメールを送りました。これはCCですけどね。

中下 なぜ,そういう方々に送られたんでしょうか。

松井 それは,名古屋で開かれた国際環境ホルモンのシンポジウム,さらに,それは日本の環境ホルモン学会といわば連続してやっておりますもんですから,このリスクコミュニケーションセッションの会場を見ますと,環境ホルモン学会のメンバーの方がたくさん聞いておられましたので,そういう関係上で送ったわけです。

甲第6号証を示す
中下 それに対しての被告(反訴原告)の返事は,このような返答のメールが来ましたか。

松井 そうです,はい。

甲第5号証の1を示す
中下 メールいただきました,今日はゆっくり読む時間がないので,後日ゆっくり読んでお返事します,中西,とありますけど,このメールが一番先に来たメールでしようか。

松井 そうだと思いますね。

中下 甲5の1が先で,その次に甲6,くだんのぺ一ジを削除しました,後日,落ち着いてからもう一度お返事します,ご迷惑をおかけしましたというメールが来たということでしょうか。

松井 そうです,はい。

中下 こういう2つのメールを今示しましたけれども,このメールをお読みになって先生の感想はどう思われましたか。

松井 削除したという点については私も了解しましたが,ところがその後,削除はしたけども,なぜ削除したのかと,つまり私が抗議をしたから削除したのかどうかとか,どういう理由で削除したとか,つまり私に対する対応は一切ここでは表現されてません。ですから,その後,中西さんのメールを待っておりましたけれども,私に対する名誉回復ですね,ここで謝っておられるわけですから,名誉回復の措置は一切なかったわけなんです。ここで感じましたことは,大変失礼なメールだなと思いました。

乙第11号証の16ぺ一ジの17項を示す
中下 この項の6行目に,後ろのほうですが,また,お名前について全文を掲載したいと思いましたが,ご本人が秘匿したいとのことでしたので,お名前や詳しい経過を書きませんでした,というふうな記載があるんですけれども,こういったお名前とか全文を掲載したいとか,そういった申入れは,被告のほうから原告にありましたでしょうか。

松井 ございません。

甲第1号証を示す
中下 具体的な記事についてですが,これの4枚目,今後はここに気をつけようというところの段落のところの記事ですが,まず,ここにパネリストの1人として参加していた京都大学工学系研究科教授の松井三郎さんが新聞記事のスライドを見せて,次はナノ粒子ですと言ったのには驚いた。要するに環境ホルモンは終わった。今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味であると,こういう記載があるんですが,これはどうでしょうか。事実ですか。

松井 事実ではありません。

中下 どこが違いますか。

松井 私は,こういう発言はしておりません。

中下 具体的にどこが違いますか。

松井 まず,京都大学工学系研究科教授ではございません。私は京都大学大学院地球環境学部の教授でありまして,そのことは中西さんに,このパネル討論が始まる前のところで,ちゃんと私は自己紹介をしております。

中下 発言をしてないとおっしゃったのは,どの部分ですか。

松井 例えば次はナノですとか,こういう言葉は使っておりませんし,それから,環境ホルモンは終わったと,こういう言葉も使っておりません。

中下 この記事についてなんですけれども,これは先生はご覧になって,事実に反していて,さらにご自分の立場を悪くするものだというふうに思われたんでしょうか。

松井 これはもう,私はそう思いました。

中下 なぜでしょうか。

松井 私は環境ホルモンの研究,重要性を訴えてきた人物でありますし,それから,文部科学省の大変大きな研究プロジェクトの代表を務めてまいりました。ですから,私と一緒に研究をしてくれた若手の研究者が,少なくとも100名以上いるわけですね。その人たちに対して,私,つまり代表が,環境ホルモンの研究は終わったというようなことを言われますと,若い研究者に対して大変不信感を抱かせると。これは,私にとっては大変な迷惑であります。

中下 先ほどお話がありました環境ホルモン問題については,ちょっと極端な話で言うと,終わったと考えている立場と,いや,終わってない,重要な問題で,もっと研究していくべきだ,こういう立場と,大きく2つの対立があったわけですね。

松井 そうです。

中下 この記事を知らない人が読むと,先生が,もう終わったという立場にそれまでの立場から変わったというふうに思われてしまうということでしょうか。

松井 そうです。

中下 そのことが,なぜ先生にとっては迷惑になるんでしょうか。

松井 当時,環境ホルモンの研究を続けておりましたし,もちろん現在も環境ホルモン学会の副会長を指名していただいて活動しておりますが,そういう立場の人間に対してこういうような批判をされますと,これは,まるで私が今まで考えてきたことを,いわゆる転換ですね,立場,考え方を変えるというか,変えたとか,そういうような人間に見られ   てしまうわけですね。これは私の信頼を損なうことになります。

中下 同じ記事のその次の段落で,スライドに出た記事が何の新聞の記事か分からなかったしとか,だあっと続きますけれども,そこの段落からその下4つ目の段落までのところですけれども,4つ目の段落,学者が他の人に伝えるとき,新聞の記事そのままではおかしい。新聞についてこう書いてあるが,自分はこう思うとか,新聞のとおりだと思うとか,そういう情報発信こそすべきではないか。情報の第一歩は,大きな影響を与える。専門家や学者はその際,新聞やテレビの記事ではなく,自分で読んで伝えてほしい。でなければ専門家ではないという,この記述がずっとこう,一連の記述があるんですけれども,これについてはどうでしょうか。先生は自分のことを言われているというふうに受けとめられましたか。

松井 この文脈からしますと,私がこのような学者であるというように言われていると私は受け取りました。

中下 先生以外の読まれた方が,どういう意見をお感じになったというふうに聞いておられますか。

松井 ですから,これは私に対する名誉毀損ではないかというようなことを指摘する方もおられました。

中下 ここに書かれていることは,事実に反している部分があるわけですか。

松井 そうです。

中下 どこが事実に反していますか。

松井 ですから,私は,まず先ほど申しましたように,環境ホルモンは終わったという,こういう発言はしておりません。

中下 今のスライドに出た記事がからの段落,ちょっともう時間がないので詳しく全部読めないんですけれども,この記事をお読みになって,先生がどこが事実に反しているというふうに思われたのか。

松井 ですから,これ,私の研究の内容ではないところを,彼女は,つまり中西さんは引き出してきて批判しておりまして,これは私の主張と違うなと,そういうように私はこれは見ました。

中下 今おっしゃったのは,新聞記事に関してのところですか。

松井 そうですね。

中下 つまり,このナノ粒子の有害性のような記事だったが,これを先生が示されたということを書かれていて,さらに後段のほうを読むと,この記事をそのまま示されて,これについてコメントしていないと,自分はこう思うとか,新聞のとおりだと思うとか,そういうことをやってないじゃないかというふうな記載になっているんですけれども,この点について,先生はどう思われますか。

松井 私は,ですから,あの記事をスライドでお見せしましたときは,私独自の研究の成果からナノ粒子の問題点を指摘したんであって,あの新聞に書かれてる内容,その内容について,あのスライドを説明したと,その内容に基づいてスライドを説明したというわけではございません。

中下 本件提訴を決意されたわけですけれども,なぜ本件提訴を決意されたんでしょうか。

松井 中西さんからのメールをいただいた後,あと何の私の名誉回復に関する措置もとられてないという状態がずっと続いておりました。それで,私としては,名誉回復をしてほしいということを願っておったんですが,その対応が全く見られないということから,この状態で私の名誉回復は図れないというので,まず裁判の準備を考えました。そうしま      すと,またメールが参りまして。

甲第7号証の3を示す
中下 このメールが,3月13日に屈いたということですね。

松井 そうです。

中下 これを読まれて,どう思われましたか。

松井 要するに大変失礼だなと。3月13日になって,突然こういうメールが来たんですけども,その間,私の名誉回復をどうするかということは一切連絡もなくて,それで突然こういうメールが来て,私は何ですか,これはと,今さら何を言ってるんですかと。京都新聞というのは既に分かってるはずですから,今さら何を言ってるんですかと,こういう気持ちになりましたですね。それで,そこで感じましたことは,中西さんは恐らく反省してないんじゃないかと。これだけ私が批判をし,名誉回復してほしいと言ってるにもかかわらず,ほとんど反省してないと,そういう意味で,大変これは,ますます私は心外な気持ちになりました。

中下 甲7号証の3のメールには,お約束は年度内ということでというふうに記載があるんですけれども,年度内に何か対応されるということについて約束したことがありますか。

松井 ございません。私は,一切そのようなメールをいただいておりませんから。

中下 それから被告(反訴原告)は,この裁判の中で,ここに今示したようなホームページの記載というのは,学問的な批判の自由の範囲内のことだというふうに主張しておられるんですけども,この点についてはどう思われますか。

松井 いや,そういう内容じゃなくて,事実に対して間違った理解をして,それを意見表明されているわけですから,私はそれについて指摘をしているわけなんで,なおかつ私の名誉回復をしてほしいと言ってるわけであります。ですから,学問に対する批判ということではございません。

中下 さらにまた被告(反訴原告)は,本件提訴は不当提訴であると,不当訴訟であるということで反訴を起こされておられて,実は原告(反訴被告)の主目的は自分の名誉を回復するということではなくて,環境ホルモンは終わった,空騒ぎであるというふうに主張している被告への攻撃にあったんだというふうに主張しておられるんですけど,この点についてはどうですか。

松井 違います。私は,あくまでも事実の間違ってる部分を直し,謝罪してもらい,名誉回復をしてほしいと言っていることだけです。

中下 被告(反訴原告)は,この裁判になってから後,本件裁判に関する記事をずっとホームページに掲載しておられますよね。そのことはご存じですよね。

松井 知っております。

中下 それについてどう思われますか。

松井 ですから,そのホームページの中で,引き続き私の名誉を毀損するような,そういう記述もあるように伺います。特に,中西氏は経済産業省の傘下にある産総研の化学物質リスク研究センター長という,いわば権力の側の方であります。ですから,発言は,他の研究者に対して批判をする場合には,これはやはり慎重に自己規制が必要だと思いま   す。ところがホームページを見ますと,そういうような自己規制,自己チェック能力が一切働いてなくて,反省しているという姿勢が全くうかがえません。ですから,私は,これはもう裁判でこれはしっかりとした結論を出していただいて,それで裁判長のお力で彼女に対して反省を求めたいと,こう思っております。

中下 原告の名誉回復のために,どういうことをしてもらいたいというふうに考えておられますか。

松井 私がお願いしていることは非常に簡単でありまして,中西さんのホームページにおいて謝罪をしっかりし,私が抗議している内容を掲載すること。それから,環境ホルモン学会が定期的に出してるニュースレター,それに謝罪の文を載せると。非常に簡単なこの2点だけです。

中下 環境ホルモン学会のニュースレターに掲載するというのは,なぜそういうことをしなくては名誉回復できないとお考えなんでしょうか。

松井 これは名古屋の国際シンポジウムそのものが,環境ホルモン学会といわばあわせた形で開催されておりまして,名古屋の国際シンポジウムの組織,準備過程で,環境ホルモン学会の先生方が協力されております。ですから,そこで関係が非常に深いということですね。

中下 最後に,裁判所に要望されることがありましたら言ってください。

松井 この件はあくまでも名誉毀損に対する問題でありまして,それでホームページという,これは自由に自分の意見が述べられる新しい媒体であります。しかし,この媒体を使って自分の意見を表明する場合には,自己規制,あるいは科学者の場合は,科学者の倫理として,きちっとした倫理に基づいて自分の意見表明をするべきです。ところが中西さ      んの場合は,これは一方的な意見表明に終わってしまっておって,私の例えば反論については,載せてもらうことはできませんでした。ですから,私の名誉回復はどうしても必要であります。それから,中西さんはその後を見ていますと,私以外の方にも同じような問題を起こしておられまして,このまま続けられると,再び同じような名誉毀損の問題が起こるんじゃないかと,そういうことが私は懸念されるもんで,この際,裁判によって,彼女の態度に対して強い反省を求めたいと思います。


被告(反訴原告)代理人(弘中惇一郎)
甲第22号証を示す
弘中 10月21日付,つまり6日ほど前の日付の陳述書が出ているわけですが,このようなものを出すということをお決めになったのは,いつなんでしょうか。

松井 これは尋問の準備をする過程で,内容はかなり科学的な内容になってご理解いただくのが大変だから,こういう文書をもう一度しっかり作成して,それでご理解いただくようにという,そういう考えがあって,それで多分,一月ほど前だったでしょうか,こういう話が始まりました。

弘中 そういったものを出すということを被告側のほうにも伝えたほうがいいんではないかということは,その打ち合わせの中ではなかったんですか。

松井 それは,私そのものはよく分かっておりません。どういう,裁判の手続がどうなっているかというのは私は分かっておりませんから,そういう話は私自身はしませんでした。

弘中 そうすると,この文書を作るのに一月近くかかったということですか。

松井 はい。原案から始まりますと,ほぼ一月はかかっております。

弘中 これには,必ずしも最初の陳述書,つまり甲9号証をどこか訂正するというふうな記述はありませんが,甲9号証をこの機会に訂正しようということはお考えにならなかったんですか。

松井 考えておりません。

甲第9号証の6ぺ一ジ及び7ぺ一ジを示す
弘中 6ぺ一ジの一番最後から,「パネルディスカッションが始まり,私は,スライドを用いて15分間の意見発表を行いました。スライド及びコメントの内容は別紙(甲第8号証)にまとめましたので,それをご覧いただければと思います。」とありますが,この箇所は不正確だということで,訂正をする必要があるとはお考えになりませんでしたか。

松井 今回は,そのような考えはございません。

弘中 そうすると,甲8号証どおりの発言をしたと今でもおっしゃるわけですか。

松井 と思っております。

甲第9号証の10ぺ一ジを示す
弘中 下から4行目に「京都新聞記事を見せましたがその時,新聞記事の研究内容とは別に,私自身が以前からナノ粒子一特に,フラーレン炭素の細胞の細胞内外挙動を心配しており,京都大学の別の研究所と連絡を取っているが,研究が遅れていると発言しました。」とありますが,そういう発言を実際されたんですか。

松井 これはちょっと私の記憶にございませんので,現在の時点では不確かです。

弘中 そのことを,今般せっかく陳述書の追加を出すんですから,不確かなことは不確かにするというふうに訂正しようとはお考えにならなかったんですか。

松井 その点は考えておりません。

甲第22号証の16ぺ一ジを示す
弘中 下から9行目に,「被告は,陳述書で,「1回目の発言の最後に,急にナノ粒子の問題がでてきて」と記載していますが,これも事実と相違していることは当日の私の発言のテープ(乙第5号証の2)からも明らかだと思います。」とありますが,乙5号証にはどこにナノ粒子の問題がすべて出てきたという趣旨なんでしょうか。つまり,ここでナノ粒子の問題について急に出たわけではないと,つまりそれ以前にまた同一の問題については発言自体が記載があるわけですが,そういうことはあったんですか。

松井 ご質問の意味が分からないですが。

乙第5号証の2を示す
弘中 あなたがお書きになった陳述書では,被告の陳述書の中で,「1回目の発言の最後に,急にナノ粒子の問題がでてきて」とあるけども,それが事実と違うというんですから。どこかに出てきてるとおっしゃる趣旨だと思うんだけど,どこにも出てきてないので,どこにあるのか教えてほしいんです。

松井 質問の意味がよく分からないので,答えようがないです。

弘中 あなた陳述では,簡単に言えば,ナノ粒子の問題については1回目の最後に急に発言したわけじゃなくて,その前にナノ粒子について説明しておったんだというふうに受け取られるから,そういう意味でお書きになったんじゃないんですか。

松井 今の文脈でいきますと,私はプレゼンテーションをセッションでやりましたですね。プレゼンテーションは2回に分かれておりますね。1回目のプレゼンテーションのところで,スライドを使って,そこでナノ粒子のスライドは出てまいりましたですね。それはそのとおりですよ。

弘中 その前は,出てきてないんでしょう。

松井 その前には発言しておりません。

甲第9号証を示す
弘中 去年の7月に出されたこの陳述書を出されるときには,このシンポジウムでの発言が録音されているというふうなことは考えておられましたか。

松井 シンポジウムをやっている最中は,全くそんなことは思っておりません。

弘中 そうではなくて,最初の陳述書,甲9号証を作るときですね。

松井 それは私は承知しておりませんでした。

弘中 録音があるということは予想もしてなかったという趣旨ですか。

松井 はい,そうです。

弘中 録音が出てきて,つまり乙5号証ですけども,これは自分のほうが何か勘違いしておったなと,例えば発言したつもりだったけど,実際には発言してなかったなというふうな反省をされたことはあるんですか。

松井 基本的に,ございません。

弘中 発言をしたということと,発言はしないけれども,自分の考えは分かってくれる人だったら,そこから言いたいことを想像してくれるだろうなということが違うということは分かりますよね。

松井 いえいえ。科学研究の発表では,スライドを使って説明します。そうしますと,短時間で情報発信するには,言葉で発しなくても図によって情報が読み取れるわけです。ですから,あの場合はまさにその状況でありまして,15分間でしゃべる内容を物すごく私は集約してプレゼンテーションをやっておりますから,一々言葉でしゃべらなくても,図を見て,図に全部ヘッドラインが書いてあります。説明書が書いてあります。ですから,科学者は,それを見た瞬間に意味は理解するんです。

弘中 そのことを否定するつもりはありませんけども,私はこういう発言をしましたということと,私の言いたいことは,この図を見てくれれば分かっていただけるでしょうということが違うというふうに思いませんか。

松井 いや,思わないですよ。図とスライドを使った,図と言葉で両方で私は発言したつもりですから,説明したつもりですから。それが科学発表です。それが科学の発表ですよ。スライドを使うというのはそうなんですよ。

弘中 発言をしなくても,参加者全員が直ちに同じ想像をしただろうということですか。

松井 全員じゃありません。理解できる人です,それは。それが科学ですよ。科学の発表です。

弘中 ですから,全員じゃないということは,あなたも認めたんですから,やっぱり発言してはっきり言うことと,それから,ある専門家だったら,きっと想像して分かってくれるだろうということが違う次元の問題だということはお分かりなんじゃないですか。

松井 いや,発言したって分からない人もいますよ。中西さんみたいに。

弘中 中西さんでも,その図面だけじゃ分からないというふうに,あなたの認識なんですね。

松井 いやいや,中西さんがですよ。

弘中 だから今おっしゃったとおり,中西さんにおいては,実際にあなたが発言しなかった場合には図だけじゃ分からないだろう,これはお認めになるんですか。

松井 いや,それは図を説明したからといって,分かるかどうか分かりません。しかし,今の代理人のご質問に対して私はお答えしておりますのは,発言した録音の内容だけがプレゼンテーションの内容ではないということですよ。図というものとあわせて,それは説明だということです。それが科学発表ですから。

弘中 あなたのご認識では,中西さんの場合には発言をせずに図だけを示した場合には,自分のおっしゃりたいことは分からないだろうと,これはお認めになるんですね。

松井 いや,中西さんは図を見ておられないんですよ,質問されて。私の発言中,全然,図を見てないんですよ。

弘中 中西さんの場合であれば,あなたのおっしゃるところによれば発言をしなくて図を示しただけでは理解できないだろうと,あなたのおっしゃりたいことは分からないだろうと,この点はお認めになるんですね。

松井 多分そうだと思いますね。

甲第8号証を示す
弘中 スライドの写真と下の説明とがワンセットになったものなんですが,これについては,原告からの証拠説明の補充書,つまり2005年11月17日付けの補充書ですが,それによると,このスライドなり,説明図の説明の言葉のほうは,平成17年7月5目,つまり裁判が始まってから作ったものだというふうになってるんですが,それはそのとおりなんですか。

松井 そうです。

弘中 そうしますと,第2回のこの事件の弁論ですが,そのときには,これは7月15日に開かれていますから,裁判の10日ほど前にこういう説明の言葉を作ったんだということは,松井さんも,それから代理人も分かっておられたですね。それにもかかわらず,そのときの第2回の弁論のときには,このスライド写真とこの下の説明の言葉と一体化して,両方ともシンポジウムの前に作ったものだというふうな形で出されたのは,どうしてなんですか。

原告(反訴被告)代理人(中下) 先生,ちょっと異議があります。そういうふうな形で提出しておりませんが。

被告(反訴原告)代理人(弘中惇一郎) 証拠説明を見せましょうか。

原告(反訴被告)代理人(中下) だから,出し直したんじゃないですか。

被告(反訴原告)代理人(弘中惇一郎) 出し直したのは,ずっと後の話じゃないですか。

原告(反訴被告)代理人(中下) 趣旨がはっきりしてなかったからとおっしゃったから,出し直したんです。

被告(反訴原告)代理人(弘中惇一郎) 7月15日のときのことを聞いてる。

松井 私は記憶にありません。

弘中 その当時は,被告(反訴原告)側が乙5号証の録音テープを出してませんでしたから,原告(反訴被告)としても,そんなものはないだろうと。したがって,こういうことを言ったはずだというふうに言えば,それで通るというふうに思っておったんじゃありませんか。

松井 思っておりません。

弘中 ご自分がどういう発言を実際にしたかということを,ご自分は録音されないにしても,参加者からメモを見せてもらうとか,何人かの参加者から聴取するとか,実際の発言がどういうものだったかということをお調べになりましたか。

松井 調べておりません。

弘中 調べる必要もないと思われたんですか。

松井 その書証準備の過程は,私の頭の中で何をしゃべったか大体記憶しておりますから,それに基づいて趣旨をそれは書いたわけです。発言の一字一句を書いたわけではありません。

弘中 証拠説明では,甲8の下段というのは,原告(反訴被告)が記憶に基づいて記述をしたというふうになってます。昔のシンポジウムの短い時間の中で実際にどういう発言をしたかということを,正確にご記憶だったんですか。

松井 科学者ですから,スライドを使って説明する場合は,そのスライドの発信する情報については全部頭に入っております。

弘中 おっしゃりたいことが頭に入っているというのは分かりますが,実際にどういうふうな発言をしたかということまではご記憶なかったでしょう。

松井 それは無理ですね。しかし,先ほど申しましたように,科学発表というのは,スライドを使って,しゃべらなくても図でもって説明するという場合があります。

甲第8号証の第13図を示す
弘中 これは京都新聞の記事ですから,それまでの12図以前のものと違って,その細かい本文中の記述,記事の記述,活字,これは広い会場にいる人が瞬時に中身を理解するということは無理なスライドではありませんか。

松井 もちろん,そうです。字は小さいですから。

弘中 そうすると,図を示しただけで分かってもらえるということを繰り返しおっしゃってるんですが,13図を示すと会場の人は何が分かるんですか。

松井 ですから,12図と13図は連携して私は説明しているつもりです。13図だけを説明したんじゃなくて,12図の説明の前提があって13図というように私は説明したんです。

弘中 13図だけによって何か分かるメッセージというのはあるんですか。

松井 13図でメッセージしたかったことは,ナノ粒子というのが重要な問題になってきましたねということです。

弘中 それだけですか。

松井 はい。ですから,これは環境ホルモンの研究の関係から,これは重要ですねということを,私はメッセージとして出したんです。

弘中 そうすると,ナノ粒子については,原告(反訴被告)の発言を前提にしても,新聞のような重要な問題ですねというメッセージと,実際に発言された次のチャレンジはナノ粒子だと,この程度のことに尽きるんではないんですか。

松井 それは,会場の方の,この私の発表に対してどう受け取るかによると思いますね。

弘中 第13図の口頭説明の要点の第8号証ですが,ここには,今後心配される化学物質がナノ粒子であると指摘し,京都新聞を紹介した。つまり,ここでナノ粒子の懸念は細胞内に侵入すると,現在の松井研究室の知見では,細胞外に排除する解毒機構が不明であることから,ダイオキシンと似た状況が推定されるとしてとありますが,そんなことはどうしてこの新聞記事で会場の人は分かるんですか。

松井 私は,新聞の記事ではそれは分からないかもしれませんが,第12図の説明の連続としてこのナノ粒子を説明しているということを申し上げているわけです。第12図でもって説明するのは,基本的にダイオキシンというのが,細胞外に解毒する機構がないねと。

弘中 ナノ粒子とダイオキシンが共通するということは,一体どこで分かるんですか。

松井 それは,ですから入ったものが出てこないということです。

弘中 そんなこと,いつおっしゃったんですか。

松井 言わなくても,その関係性を私は言ってるわけです。

弘中 関係性があると,どうおっしゃったんですか。

松井 言っておりませんけども,関係性があるということでもって私は示しております。

弘中 少なくとも13図の口頭説明の要点ということは,あなたの発言プラスその上の京都新聞の写真から,とても出てこない内容じゃありませんか。

松井 第12図の説明の連続性でもって出てくるわけです。第12図では解毒機構の話をしております。

弘中 でも,それはナノ粒子ではないですよね。

松井 ですから,ナノ粒子とダイオキシンがなぜ共通しているかということで私は説明しているわけです。

弘中 でも,なぜ共通しているかということを,言葉自体を使っておられないでしょう。

松井 言葉自体は使っておりませんけども,先ほど申しましたように,図でもって私は説明しているわけです。

弘中 そうすると,12図の図を示しているときに京都新聞を見せると,そういう答えがぱっと出てくるというふうに考えていたわけですか。

松井 ぱっとは出てきませんけども,それは当時,会場におられる科学者の中で最もこの研究に近いところで研究されている方だったら,これは私の発言は理解される内容だと思います。

弘中 このセッションの参加者は,パネラー一つをとっても環境ホルモンの専門家は原告(反訴被告)1人だったわけですね。そうすると,そもそもパネラーさえも,一体何でそこでナノ粒子の問題が出てくるのかということが理解できなかったんではありませんか。

松井 いや,ですから,これはリスクコミュニケーションのセッションだったわけですね。ですから,リスクコミュニケーションをする場合に,化学物質が今問題になっているわけですね。それで,環境ホルモンと言われている化学物質についてのリスクコミュニケーションをやっていたわけですけども,しかし環境ホルモンと言われてる物質の毒性機構がはっきり分かってないねと,そういう状況の中でどうやってリスクコミュニケーションをしたらいいんでしょうかということを議論したわけですね。

弘中 今日の主尋問の中で,環境ホルモンの専門家であれば,図を見せれば一々言葉で説明しなくても,おっしゃりたいことは分かるはずだという趣旨のことをおっしゃったと思うんですが,しかし,パネラー自身でさえもほかに専門家はいないんですから,パネラーでさえも,原告がどういう趣旨でおっしゃっているのか分からないということになりませんか。

松井 というのは,パネラーの中に環境ホルモン問題は終わったと考えておられる人に対して,そうではないですよという,いわば警告です,これは。

弘中 どういう意味ですか。

松井 問題は終わってないのに,これだけたくさんあるのに,なぜ終わったと言えるんですかと,私はそれを暗に言ってるわけです。

弘中 パネラーにおいても,原告のような発言の仕方,あるいはそのスライドの示し方では分からないことが多々あったろうと。なぜなら,環境ホルモンの専門家ではないからということは,お認めになるんですか。

松井 内容によっては,そうだと思いますね。

弘中 会場に来た方も,環境ホルモンの専門家ももちろんいらっしゃったでしょうけども,ほかのパネラーの話を聞きたいという方もいらっしゃるわけでしょうから,環境ホルモン専門家以外の方も多数おられたんではありませんか。

松井 それは私は調べておりませんから,分かりませんね。ただ,あの国際シンポジウムはお金を払って参加しますから,多分。ですから,かなり専門家の方のほうが多かっただろうと思います。もちろん一般の方はおられますけどね。

弘中 本件のこのシンポジウムのセッション6がリスクコミュニケーションという
テーマであることは,もちろん前提ですよね。

松井 もちろん。

弘中 そうであれば,そういった非専門家,あるいは一般の人ということにリスクの問題をどう伝えるかということに意を使いながら話をするというふうにはお考えにならなかったんですか。

松井 もちろん,そのとおりにしたわけですよ。ただし,15分という限られた時間ですから。

弘中 限られた時間であれば,そもそもナノ粒子の問題なんて言及しないということが一番正しいことだったというふうにはお考えになりませんか。

松井 いや,そうは思いません。

弘中 それはどうしてですか。

松井 予防原則というのが,このコミュニケーションの中でも一つの大きなキーワードになっておりましたですね。

弘中 時間がなくて,スライドとしては新聞1枚を見せて,発言も言葉に出してはほとんどされてないということは証拠ではっきりしていると思うんですが,そういった形で話すぐらいであれば,環境ホルモンの話にとどめて余計なことは言わないと,それがまさにリスクコミュニケーションとしての正しい方法であるというふうにはお考えになりませんでしたか。

松井 いや,そうは思わなかったですね。

弘中 どうしてなんですか。

松井 それは,重要な問題が関連性があるということを申し上げたんです。環境ホルモン物質の問題についての研究が進んでいる中で,ダイオキシンに関しては解毒機構がやっと分かってきた。で,解毒機構が働いてないということがあって,解毒機構が働かないということが化学物質の有害性の重要なポイントであることを私はここで申したわけですね。だから,その関連性上,共通性上で,ナノ粒子というのも私は説明をしたんです。

弘中 実際なされたようなスライドの示し方,あるいはその発言では,ナノ粒子の問題について,無用な不安とか誤解とかを与えるのではないかということはお考えになりませんでしたか。

松井 そうは思わなかったです。私はむしろ重要性を指摘したわけです。

弘中 ナノ粒子についても,十分な説明をしたというふうにお考えなんですか。

松井 時間の関係上,これは1枚のスライドですから決して十分な説明はできなかったですよ。与えられた15分の中で,私は最大限の情報提供をしたんです。

弘中 乙5号証のテープとテープを反訳したものを上げているというのは,お聞き,あるいはお読みになってらっしゃいますね。

松井 はい,目を通しました。

弘中 ここで,ナノ粒子について,次のチャレンジはこのナノ粒子だと思っていますという発言はされましたね。

松井 はい。

弘中 ここで,次のチャレンジと言えば,当然これまでのチャレンジということがその前提としてあるかと思うんですが,これまでのチャレンジというのは何を指す趣旨でしょうか。

松井 環境ホルモンですね。

弘中 その環境ホルモンに対して,次のという言葉を使ったのはどうしてなんですか。

松井 関係性があって重要だという意味です。

弘中 関係性があって重要だというときに,次のチャレンジというふうにおっしゃるんですか。

松井 そうですよ。毒性のメカニズムは共通しているという意味で,関係性があると私は申し上げたんです。そのために第12図を使って長々と説明したんです,第12図を。

弘中 ナノ粒子の発言のときに,第12図を用いたんですか。

松井 いや,12図で説明をした上で,最後にその13図を出したわけです。

弘中 ですから,ナノ粒子の発言のときには,13図のスライドのみを示している
わけですね。

松井 それはそうですよ。それは1枚ずつ順番ですから。

弘中 ナノ粒子の発言のとき,何か12図のことを引用してお話になったんですか。

松井 戻っておりません。そんな時間はありません。

弘中 原告(反訴被告)の位置づけとしては,13図のスライドは,1番目から12番目のスライドと同じような位置づけになんですか,それとも13図のスライドというのは,ちょっと性質が違うものとしてお使いになったんですか。

松井 そうではありません。一連のものとして使っております。これは環境ホルモンの学会ですから,環境ホルモンのシンポジウムで環境ホルモンを中心とするリスクコミュニケーションですから,私は当然リスクコミュニケーションの中の環境ホルモンとの関連性で申し上げているわけです。

弘中 このナノ粒子の発言,乙5号証のほうですが,それと京都新聞をあわせても,もとの原論文については触れてないということは明らかなんではありませんか。

松井 原論文そのものを触れてはありません。一切それは,その発表の中では使っておりません。

弘中 したがって,原論文について原告(反訴被告)としてはどういう点が重要だとか,どういう点については問題あるという,そういう原論文を意識した発言も一切ございませんね。

松井 しておりません。

弘中 それは必要ないとお考えだったんですか。

松井 そうです。これはダイオキシンの研究,環境ホルモン物質の毒性メカニズム,細胞外排除機構と,そういう研究の一連の中で関係性という意味で私はその問題を提起しているわけであって,これは私の独自の研究成果に基づいた発言です。

弘中 そういった意味で,ナノ粒子について環境ホルモンと共通性を考える必要があるということは,それまでにどこかの論文で発表されておったんですか。

松井 近いものは,どこかで発表しているはずですね。あるいは,そのポスターセッションで発表する,環境ホルモン学会で私のグループがあちこちで発表しておりますから。

弘中 原告(反訴被告)のご記憶にある,出せるような活字になった論文というのはあるんですか。

松井 ナノ粒子との関連についてのは,私は,先月,北京であった国際学会で発表しております。

弘中 私が伺っているのは,このシンポジウムのときまでにという意味ですが。

松井 ございません。

弘中 そうすると,原告(反訴被告)はナノ粒子とそれから環境ホルモンについてどういう点に共通性を見出してるかとか,どういう問題意識を持ってるかということは,専門家でも分からなかったんじゃありませんか。

松井 私自身が研究の中で見出して重要なことを申し上げてるわけです。他人のことというか,他人の言説を私は言ってるわけじゃございません。

弘中 私が言いたいのは,原告(反訴被告)はそれまでにその種のことをあちらこちらで論文に書いて発表されておれば,シンポジウムでの言葉が少なくても,専門家はあのことをおっしゃっているんだなというのは分かるでしょうけども,それすらもなければ,一体何を言ってるんだろうかとなるんじゃありませんか。

松井 いや,科学というのは日進月歩ですから,そのときの段階で一番新しい情報を提供するのが科学者です。

弘中 そういったことをそれまで論文の形では少なくとも発表してこられなかったことは,お認めになるわけですよね。

松井 それは認めます。ただし,ナノ粒子と環境ホルモンの関連性についての論文は,その段階までは発表しておりません。

弘中 そういう前提のときに,シンポジウムで共通性という言葉すら使わずに,いきなりナノ粒子のことを出して,いや,専門家なら分かるはずだというのは,どうしてそういうことが言えるわけですか。

松井 現実に私の発表の後,それについてヒントを得たという人がおられますから。学問ってそういうもんですよ。

弘中 そういう人がいたということから,会場の人全員が分かったはずだとおっしゃるわけですか。

松井 いえいえ,そういう人もおられるということですよ。科学発表ってそういうもんですよ。ナノ粒子の本当の研究者って,世界じゅう探してもそんなたくさんおられませんからね,今,ナノ粒子の毒性については。環境ホルモンについても,やっと日本で研究者が集まってきて研究をやってるわけですからね。学問は,そうやって組織されて進化していくわけです。

弘中 原告(反訴被告)からのホームページにおける発言ですが,専門家や学者は,新聞やテレビの記事ではなくて,自分で読んで伝えてほしいと,あるいは学者が他の人に伝えるとき,新聞の記事そのもののままではおかしい,自分はこう思うというようなことを発信すべきではないかと,こういうふうに言ってるわけですよね。

松井 それは中西さんがおっしゃってるわけですね。それは中西さんの見解ですよ。

弘中 中西さんが問題にしていたのは,ただその原論文を読むか読まないかではなくて,読んだ上でそれをそしゃくして伝えると,読んで伝えるという一連のことをするべきだという趣旨ではないんですか。

松井 いや,私はそこでナノ粒子の問題を提起したのは,論文の紹介するというんじゃなくて,ナノ粒子が問題だという意味で使ったわけですね。ナノ粒子はなぜ問題かということ,環境ホルモンの研究の成果,その中から関連性があるというだけで申し上げているわけですから,中西さんが言っているような論文を,私はそこで紹介する必要はないわけですよ。

弘中 論文を紹介する必要すらないと。

松井 そうですよ。私の思ってる趣旨は,第12図から第13図の関係性でもってナノ粒子というのを申し上げてるわけであって,新聞に載せられてる論文について,一々そこで紹介する必要はないんですよ。

弘中 そうすると,第13図の新聞記事を出されたのは,そこの記事中にある論文のことが念頭にあったんではなくて,こんな大きく見出しが出ているような大問題だと,これをアピールしたかったということに尽きるわけですか。

松井 いや,ナノ粒子というのは次で,環境ホルモンの関係性から一つの共通性があるという意味で私は説明したわけですねよ。

弘中 中西さんのおっしゃっている,学者は論文を読むだけじゃなくて,読んで伝えてほしいと,このことには反対なんですか,賛成なんですか。

松井 それは反対しません。しかし,私のプレゼンテーションのときは,そういうような局面ではなかったということです。あの局面で,私がそういうことをやる必要はなかったからです。加えて,時間が非常に限られますから,15分間で14枚,15枚からスライドを持って説明するわけですから,これは極めて厳しい状況です。

弘中 そういうときには,時間を考えて,全部を使わないで,1枚スライドは省略して,残りで充実した説明をするというようなことをお考えにならなかったんですか。

松井 いや,それは関係性の必要性を感じたから,私は説明をしたわけです。

弘中 ナノ粒子のことに触れないと,そこで前半の部分を締めくくらないと,発表としては不完全だとお考えだったわけですか。

松井 リスクコミュニケーションという,その場を考えたからです。

弘中 一般論として,学者の研究対象が変わっていくということは普通のことですね。

松井 変わっていくというのは,連続性があって変わるという場合と,連続性がなくて変わる場合と,2つあると思いますね。

弘中 それは,いずれもあり得るんじゃないですか。

松井 いずれもあるでしょうね。

弘中 そのこと自体で,あの人は,あのテーマやめて別のテーマにしたからけしからんとかひどいとかいう,そういうことで評価が下がることというのはあるんですか。

松井 ですから,連続性があって変わる場合というのは,これは一貫したその研究者の思想と立場がありますね。それに対して,それを全く別の方向に行ったという場合は,その間に関係性がないとい,う場合には,変わったということになりますね。これは,そういう場合もあり得ると思いますよ。私は,両方ありますから,どちらが悪いと言ってるんじゃなくて,両方ともあり得ると。

弘中 原告(反訴被告)のおっしゃっているのは,ナノ粒子のところに関心が生じたということを問題にしてるんではなくて,環境ホルモンが終わったという言葉を使われたのが我慢がならないということですか。

松井 もちろんそうです。

弘中 現在は,ナノ粒子の問題のほうに,かなり研究のエネルギーを割かれているわけですか。

松井 ナノ粒子だけではありません。うちの研究室は,環境ホルモンの研究を継続してやっております。

弘中 そちらのほうに,一部エネルギーが移ったということではないんですか。

松井 その研究もテーマとして取り上げているということです。ですから,環境ホルモンの研究は,引き続き重要な研究テーマとしてやっております。

弘中 甲5号証の1で,原告(反訴被告)は,非常にたくさんの方に中西さんに対する抗議といいますか,そのメールを転送,CCで送ってらっしゃいますが,大勢の人にそれを送るという目的,理由は何だったんですか。

松井 大勢か少ないかというのは,それは判断の違い,それによって違うと思いますが,それは,主に送った方は,環境ホルモン学会の私が親しくしてる先生方です。

弘中 中西さんと一対一のやりとりではなくて,多数の人にそれを出したのはどうしてか。

松井 その前に,中西さんはホームページでもって,不特定多数の人に情報を流しておられますから。

弘中 それに対する対抗ですか。

松井 私の場合は不特定多数じゃなくて特定で,私の知ってる知人だけです。

弘中 被告(反訴原告)の発言の環境ホルモンが終わったということがけしからんということの理由は,一般的な問題として環境ホルモン問題が終息したというか,終わったというふうにとらえたのではなくて,原告(反訴被告)が環境ホルモンに対する関心といいますか,問題意識を変えたというふうに認識されて,それでけしからんということですね。

松井 認識されたと思ったからです。

弘中 本件の提訴をするときの記者会見ということは,その内容はご存じですか。

松井 ええ,知っております。

乙第6号証を示す
弘中 このプレスリリースというのは,記者会見のときまでにご存じでしたか。

松井 いや,記者会見の当日にこれは知りました。

弘中 そこで,終わりのほうですが,環境ホルモン問題は終わったという誤った考え方を断じて見過ごさないで,あえて提訴したという言葉を使っていますが,それは原告(反訴被告)もそういう意識なんですか。

松井 これは代理人の方が作られた文章ですから,ちょっと私の文章とは違いますね。

弘中 文章の細かい字句は別にしても,提訴の目的が代理人と原告(反訴被告)とで同じだったのか,違うのか。

松井 私は,環境ホルモンの研究は,まだ必要だという立場でございますが。

弘中 ですから,そこにあるような,被告の誤った考え方を断じて見過ごせないと。

松井 ですから,環境ホルモンの研究はする必要ないというお考えだったら,それは私は認められないことです。

弘中 被告(反訴原告)を教育するために起こすということなんでしょうか。被告(反訴原告)の考え方を改めさせると。

松井 いや,それは主張です,私の。それは,私の主張です。

弘中 それが主張であり,そういう目的,考えのもとに提訴されたというふうに考えていいんです。

松井 いや,裁判の目的は,これは名誉毀損ですね。

弘中 今示したとおり,どうして相手を提訴したのかということをお書きになっているから,それは原告(反訴被告)… 。

松井 ですから,この文章は,代理人の方がお書きになった文章ですということです。

弘中 そこに示されてる考え方は,原告(反訴被告)と同じなんですか,違うんですか。

松井 共通するものがあるということです。

弘中 どういう点が共通するんですか。

松井 環境ホルモンの研究が必要だという点では共通性があります。

弘中 誤った被告(反訴原告)の考え方を見過ごせないということまではお考えになってなかったということですか。

松井 うん,この辺は微妙に違うと思いますね。

甲第8号証の第13図を示す
弘中 先ほどのご証言のご趣旨を確認したいんですが,当時のスライドということからすると,大見出しのところは多分,会場でも見えたと思うんですけれども,この大見出しが,ナノ粒子,脳に蓄積ということがあるわけですが,そういったことは,原告(反訴被告)としてその場で発表したりといいますか,認識してもらいたいといいますか,それに含まれていたのか,それとも脳に蓄積かどうかなんていうのはそれは余り関係ない,とにかくナノという言葉さえあればいいんだということなのか,それはどうなんでしょうか。

松井 脳の蓄積は,私は一切言っておりません。

弘中 それは,原告(反訴被告)の考えとも違うということですか。

松井 いや,これがいいか悪いかではなくて,私が申し上げているのは,12図との連続性においてこの図を説明してますから,私が言いたかったのは,ナノ粒子という物質が細胞の中に入った場合には,どうやってその毒性を解除するのか,排除するのかと,そういうメカニズムが分かってないですねと。その関連性でもってナノ粒子ということを言っているわけですから,この脳の蓄積というのは,私はこれ自身は一切言っておりません。

被告(反訴原告)代理人(弘中絵里)
乙第5号証の2の21ぺ一ジを示す
弘中絵 真ん中辺なんですが,原告(反訴被告)の発言として,冒頭から3行目に,研究が終わったばかりの段階なのでこれからです,と。ここだけだとちょっと分かりにくいかと思うんですが,その前にある,吉川先生だとか,あるいは山形さんからの問題提起を受けて,その答えが送られてとお答えになってるんですが,ここで,終わったばかりの研究というのは,一体どんな研究を指してるんでしょうか。

松井 それは,ダイオキシンの毒性メカニズムがどういうものかというのがやっと分かってきたということ,それを言ってるわけです。

弘中絵 分かってきたというふうにおっしゃらないで,研究が終わったというふうな表現をされたのは,なぜなんでしょうか。

松井 前半の部分の前の方の文章とつなげてください。それでないと,それを今言われても,私,答えようがないですが。前の発言がございますよね,それを受けてますよね,私は。

弘中絵 つまり,ここで研究が終わったばかりの段階なのでというふうにおっしゃっ   てるんですよね。ですから,終わったばかりの研究というのは何ですかと申し上げたら…。

松井 ですから,環境ホルモンの研究で,私がダイオキシンに関する研究は終わったばかりの段階,こういう意味ですよ。ですから,コミュニケーションができてないという話が前半にありますね。リスクコミュニケーションがなぜできないかというと,例えばダイオキシンであるとか,その他の環境ホルモン物質がどういうような毒性メカニズムを持ってるのかというのがやっと分かってきたねと。そこで初めてこれからコミュニケーションする,こちらのほうは,研究者が一般の方に伝えられる材料がやっと集まってきたねと,そういう意味ですよ,これ。

弘中絵 その分かったメカニズムを,ナノのほうでも活用したいという行為なわけでしょう。

松井 関連性があるということで申し上げたんです。

原告(反訴被告)代理人(神山)
乙第5号証の2を示す
神山 先ほどの15ぺ一ジですが,ナノが出てくる部分,下から14行目のところで,先ほど突然ナノのことが出てくるというふうに被告(反訴原告)代理人がおっしゃいましたけれど,もう一つ,最後になりますけど,我々は予防的にどうやって次の問題に,これ,比べるのかというのは,本当は何とおっしゃったんですか。

松井 これ,私,覚えておりませんが,その録音のテープがこれで正しいのかどうか,ちょっと分かりませんが。

神山 録音テープは,比べるのかと言っているわけですね。今回,学んだ環境ホルモンの研究はどうやって生かせるのか,私は次のチャレンジは,このナノ粒子だと思っています。ということは,今回,学んだ環境ホルモンの研究というのは,毒性のメカニズムということですか。

松井 そうです。

神山 毒性のメカニズム,つまり先ほどからずっと説明されたように,解毒機構が働くか,働かないかというのが毒性のメカニズムのポイントだということですね。

松井 そうです。

神山 そのことは,環境ホルモンでもナノでも同じで,今話題になっているナノについて,そういう観点から研究する必要があるという趣旨ですか。

松井 そうです。

甲第22号証を示す
神山 陳述書の16ぺ一ジ,「「1回目の発言の最後に,急にナノ粒子の問題がでてきて」と記載していますが,これも事実と相違していることは当目の発言のテープからも明らかだと思います。」というのがちょっと分かりにくいと思うんですが,ナノ粒子という言葉は,最後になって発言したということは間違いないですよね。

松井 プレゼンテーションのところですね,はい。

神山 プレゼンテーションで,新聞記事のときにね。

松井 はい。

神山 でも,これがどこが事実と相違しているというふうに思っておられることなんですか。

松井 ちょっとこれ,この意味ではですね…。

神山 原告(反訴被告)の考えでは,毒性機構の問題としてずっとつながっているんだから,環境ホルモンが終わって次はナノだというふうに,急にナノが出てきたんではなくて,つながっている問題だという意味だということでしょうか。

松井 そうなんです。

神山 ちょっとそういうふうには読みにくいですよね。

松井 そういう意味ですね。これは,事実と相違しているのは,そういう意味なんです。

神山 そういう意味ですけれど,ちょっとこれは分かりにくい文章であることは間違いないですね。それで,我々のような科学の素人には非常に分かりにくいんですけれども,図をずっと使って説明された解毒機構という,この中で,松井研究室で世界で初めて見つけたというのは,何の解毒の問題だったんですか。

松井 ですから,インディルビン,インディゴという物質ですね。この物質が人の血液,尿中に排せつされているということを発見したわけですね。

神山 インディゴとか,インディルビンというのは,我々の普通の考え方でいくと,藍染めの染料,これがインディゴですよね。

松井 そうです。

神山 そういうものが人の尿中に出ているということを,世界で初めて見つけた。

松井 そうです。

神山 どうしてそんなものが尿中に出てくるんですか。

松井 それは,日ごろ食べている食品の中にたんぱく質があって,その中にアミノ酸があって,トリプロトファンというアミノ酸は,2つの分子を結合させて,結合させるのは多分腸内細菌であると。その後,小腸で吸収された後,肝臓にまりまして,どうも肝臓だけで人間自身がインディルビン,インディゴを作っていると。それがさらに尿中に出てくると,こういうメカニズムを発見したわけですね。そのことがダイオキシンの毒性を理解する場合に物すごく役立ったわけです。

神山 つまり,ダイオキシンがくっつくAhリセプター,AhRというものは,実は人間が体の中で作るインディゴ,インディルビンを受け取るためのレセプター,受容体だったんではないかという趣旨だということでしょうか。

松井 そうです。本来はそういう形で人間は進化していたんだろうと,そういう理解をしております。

神山 その受容体にくっつくということは,くっついて体の外に出るような解毒作用が働くということなんですか。

松井 そうです。インディルビン,インディゴの場合は,見事に働いてるわけですね。

神山 ダイオキシンは,働かない。

松井 働いてない。

神山 ベンゾ(a)ピレンがその中間であると。

松井 中間です。

神山 そういうこととナノ粒子とは,どういう関係になるんですか。

松井 ナノ粒子の心配をするのは,こういう解毒機構が働かないんではないかと。まずAhリセプターに,恐らくつかまることができないだろうと。そこのやっぱり実験をやってきたら,そうでした。ナノ粒子はAhリセプターにはつかまることができません。ですから,これを介した毒性機構は働いてないということです。

神山 そういう毒性というのは解毒機構が働かないんだということを,この前半のプレゼンテーションで伝えたかったという趣旨ですか。

松井 そうです。

被告(反訴原告)代理人(弘中惇一郎)
甲第4号証の3を示す
弘中 アブストラクトについての質問があったというメールのやりとりなんですが,先ほど原告(反訴被告)は,3と4を中心に話をすることにしたんだということなんですが,前提として被告がおっしゃったのは,リスクコミュニケーションについての4とか,リスクコミュニケーションについての3ということだったんではないんですか。

松井 リスクコミュニケーションという場において,そのうちのどれかに絞り込んで話,してくださいと言われたんで,そのように私は理解しましたよ。

弘中 ですから,内分泌撹乱物質だからこその問題点というのは,内分泌撹乱物質だからこそ,リスクコミュニケーションにおいてはどういう問題があるかというふうなことなんですよね。

松井 そうです。

裁判官(一木)
甲第1号証を示す
裁判官(一木) この被告(反訴原告)のホームページを最初に見られたのは,シンポジウムの約1カ月後の1月17日,お知り合いからのEメールでお知りになられたということでしたね。そのメールの内容を覚えてらっしゃいますか。

松井 ちょっと今,覚えてないですね。メールだと思います。中西さんのホームページを見たかどうかという,そういうのですね。それで,随分ひどいことが書いてあるよという,こういうメールでした。

裁判官(一木) 本件で問題になっているシンポジウムでの原告(反訴被告)のプレゼンテーションについて,その後ですけれども,お知り合いから何か聞かれたことはありましたか。

松井 お一人の方は,よく分かったという指摘を受けました。その方の研究内容と近かったんだと。

裁判官(一木) このシンポジウムに参加することになったは,先生のご紹介ということでしたね。

松井 そうです。

裁判官(一木) 先生から,何かありましたか。

松井 シンポジウムが終わってから,大変だったですねというねぎらいの言葉をもらいました。

裁判官(一木) 先ほどの甲1号証のホームページをご覧になられたお知り合いから,先ほどのメールのほかに,何か言われたことはありましたか。

松井 メールではなくて,直接お会いしたときに,別々の異なった話も聞きました。

裁判官(一木) 別々の異なったとおっしゃるのは,どういうことでしょうか。

松井 ですから,僕が非常に名誉毀損でいじめられてるねとか,それから,あのまま放置していいんですかとか,あるいは研究内容について参考になったとか,いろんな意見がございました。

裁判官(一木) このシンポジウムの後,同じ研究室の若手の研究者の方,あるいは学生の皆さんの原告(反訴被告)に対する対応が変わったというようなことはありましたか。

松井 対応は変わっておりませんが,一斉に皆,驚きでしたですね。

裁判官(一木) 驚きというのは,どういうことでしょうか。

松井 ですから,メールを回しまして,何でこんなことと,先生を誤解してるねという,そういうのがうちの研究室の,大学院生の反応でしたね。
                                以上