反訴状(2005/09/21)
反訴状(反訴原告:中西氏提出書類)
本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。
ウェブ公開にあたって、○に数字は機種依存文字ですので、1)、2)などに置き換えました。。
反訴状
平成17年9月21日
横浜地方裁判所 御中
反訴原告訴訟代理人
弁護士 弘中惇一郎
弁護士 弘中絵里
〒□□□-□□□□ 横浜市□□□□□□□□□□□
反訴原告 中 西 準 子
〒102−0083 東京都千代田区麹町5丁目7番地
紀尾井町TBRビル1117号
法律事務所ヒロナカ(送達場所)
電 話 03-3234-0507
FAX 03-3234-0508
反訴原告訴訟代理人
弁護士 弘中惇一郎
弁護士 弘中絵里
〒□□□-□□□□ 京都市□□□□□□□□□□□
反訴被告 松 井 三 郎
訴訟物の価額 330万円
貼用印紙額 2万2000円
反訴請求の趣旨
1 反訴被告は,反訴原告に対し,金330万円及びこれに対する平成17年3月16日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。
反訴請求の原因
第1 本訴との関連性
反訴被告は平成17年3月16日,御庁に,反訴原告に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟を提起したものである(平成17年(ワ)第914号損害賠償等請求事件)。
これに対し,反訴原告は,以下のとおり,反訴被告に対し,上記本訴の提訴が不当訴訟に当たるとして,損害賠償請求の反訴を提起するものである。
第2 反訴原告の請求について
1 反訴被告が本訴で名誉毀損であるとする事実摘示(準備書面1の2頁 1)新聞記事のスライドを見せて 2)「次はナノです」という趣旨のことを言ったこと 3)新聞記事以外に原論文の指摘及びその問題点の指摘が欠落していたこと 4)新聞にこう書いてあるが自分はこう思う、といった発言も欠落していたこと)がいずれも一見して明らかに真実であって、それに基づく意見表明もまた極めて妥当なものであることは、本訴における準備書面1で述べたとおりである。
2 反訴被告は、本訴の根拠として、本訴原告準備書面1の中で、「原告らの研究成果からダイオキシンの毒性機構が判明しつつあるところそのメカニズムは有害性が懸念されるナノ粒子と共通性を持つことが推定されることを原告独自の見解として指摘した」のであって、「環境ホルモンは終わった。今度はナノ粒子の有害性を問題にしよう」という趣旨で発言したことなどはないと述べる。
しかし、実際に、反訴被告は,スピーチの終わりになって突然,「もう一つ、最後になりますけど、我々は予防的にどうやって次の問題に比べるのか(ママ)、今回学んだ環境ホルモンの研究はどうやって生かせるのか。私は次のチャレンジはナノ粒子だと思っています。ご存じのとおりナノテクノロジーがこれからどんどん進展します。私はそのこと自身は非常に重要と思います。人類が地球上で生存するために大変重要な技術と思います。しかしここ(京都新聞:反訴原告代理人加筆)に書いてあるようにナノ粒子の使い方を間違えると新しい環境汚染になる。我々はこのナノ粒子の問題にどのように対応できるかが1つのチャレンジだと思っています。時間が来たのでここまでにします」と述べたのである。これ以上何らの説明をつけなかったことは,発言内容の録音テープから客観的に明らかである(乙5)。
以上の発言内容からして、反訴被告は次はナノ粒子の有害性を研究すべきであると述べているし、「原告らの研究成果からダイオキシンの毒性機構が判明しつつあるところそのメカニズムは有害性が懸念されるナノ粒子と共通性を持つことが推定される」などといった詳細な説明は一切していないし、京都新聞についても何ら独自の意見を付することなく、そのまま新しい環境汚染が報じられたものとして紹介したのである。
3 昭和63年1月26日の最高裁判決において、「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき」には不当訴訟として訴訟提起自体が不法行為を構成すると判示されている。
本件の場合、自らの発言内容は、発言した本人が一番承知しているはずである。特に反訴被告が主張するような詳細な説明をシンポジウムで行っていないことは、十分自覚しているはずである。
それにもかかわらず、反訴被告は、本訴原告準備書面1にあるように、事実とは全く違う発言内容を行ったものと偽って、反訴原告の批判が名誉毀損に当たるとして訴訟提起したものであって、反訴原告反訴被告(*訂正予定)には主張する権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くことを知り、あるいは容易に知り得たのにあえて訴訟提起したものであるから、本訴提起は不法行為を構成すると言うべきである。
4 さらに,反訴被告が本訴を提起した意図は,真に自らの名誉回復を求めることにあるのではなく,「環境ホルモン」で地球も人類も滅びるというような議論や論調が圧倒的な中で,「環境ホルモンの代表とも言えるダイオキシンについて世間が言うような危険性は認められない」と主張している反訴原告に対する攻撃にあった。
このことは,反訴被告がプレスリリースの中で,「本件は、決して、松井氏が個人的な名誉回復だけを求めて提訴したものではない」「環境ホルモン問題は人間にとって看過できない重大な問題であることが明らかになっているにもかかわらず,中西氏が環境ホルモン問題は終わったという誤った見解を持っているので,これを見過ごすことができないので本訴提起に踏み切った」旨述べているとおりである(乙6)。
自明のことながら,本訴で問題とされている内容は,「反訴被告が 1)新聞記事のスライドを見せて 2)『次はナノです』という趣旨のことを言ったか否か、その際に 3)新聞記事以外に原論文の指摘及びその問題点の指摘が欠落し 4)新聞にこう書いてあるが自分はこう思う、といった発言も欠落していていたか否か、さらにそれに基づく反訴原告の意見表明が社会的に妥当か否か」であって,「環境ホルモン問題が終わったか否か」「環境ホルモン問題が人間にとって看過できない重大な問題か否か」という科学論争は全く本訴の争点とはなっていないし,なるはずもないのである。
反訴被告代理人らはそれぞれダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議の副代表,事務局長,事務局次長,常任幹事を務めるなど,ダイオキシン・環境ホルモン問題に熱心に取り組んできており,「環境ホルモンの人への影響は差し迫ったものではない」(乙1)とする反訴原告とは相反する立場に立つ者であるが,このことを本訴訟に持ち込むのは筋違いというほかない。このプレスリリースの内容からして,本訴提起が別目的(環境ホルモン問題について対立する立場にある反訴原告への攻撃)にあることは明白であり,これもまた本訴提起の違法性を裏付けるものである。
5 以上のように,反訴原告は,事実に基づき,社会的に相当な範囲で,学者としての立場から反訴被告のナノ粒子の有害性についての問題提起のあり方を批判したものである。もしこれに対して反訴被告が反論をするならば,言論をもって行うべき,すなわち言論の応酬により解決すべきであった。それにもかかわらず,反訴原告は違法な名誉毀損訴訟の提起に踏み切った。
本来,憲法第21条及び第23条からして,他人の学説あるいは研究発表の方法などについて学問的見地から批判することは全く自由であって,その権利は最大限に保障されなければならないものである。他人の学説や研究発表を批判したからといって逐一法廷論争に持ち込むとなれば,みな批判をすることを逡巡するようになり,学問の自由に対する萎縮効果を与え,学問の進展を阻害する結果となるのは明らかである。本訴の提起は,このような「学問的批判のあり方」の点から見ても,違法なもので,このような反論の仕方が常態化しないよう,警鐘を鳴らす必要がある。
6 慰謝料等
このような反訴被告による違法な訴え提起によって反訴原告は相当の時間的、経済的負担を余儀なくされ、また反訴被告がこのような違法提訴についてプレスリリースまで行って,「反訴原告が事実に反して反訴被告の名誉を著しく毀損する記載をホームページ上で行った」という虚偽の事実を喧伝すると共に「『科学者』の名に値しない行為である」と激しく批判したことなどからすれば、反訴原告が被った精神的損害に対する慰謝料としては、300万円が相当である。
さらに、このような違法な訴えに対応せざるを得なかったこと並びに反訴を提起せざるを得なかったことについての弁護士費用として30万円が相当である。
7 よって、反訴原告は反訴被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として金330万円及びこれに対する本訴提起の日である平成17年3月16日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
以上