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証人調書(2006/12/01)

証人調書

本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。

2006年12月1日の証人調書(主尋問と反対尋問について、録音を元に裁判所が整理したもの)


証人等調書 
本人
事件の表示 平成17年(ワ)第914号、平成17年(ワ)第3375号
期日 平成18年12月1日午後2時00分
氏名 中西準子
年齢 68歳
住所 ***************
宣誓その他の状況 裁判長(官)は、宣誓の趣旨を説明し、本人が虚偽の陳述をした場合の制裁を告げ、別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
陳述の要領 別紙反訳書記載のとおり

宣誓 良心に従って真実を述べ,何事も隠さず,偽りを述べないことを誓います。
氏名 中西準子


被告(反訴原告)代理人(弘中惇一郎)
乙第11号証を示す
弘中 こちらの陳述書と題する書面で,中西さんのサイン,捺印がありますが,これはご自分の署名捺印ですね。

中西 そうです。

弘中 この文書自体は,どうやってお書きになりましたか。つまり,弁護士が作ったのか,中西さんがご自分で作ったのか。

中西 私自身が書きました。

弘中 どこか,現時点で訂正しなきゃいけないというようなところはございますか。

中西 番号が1つ,抜けてるところがございました。それからあと,年号が1つ,1年違ってるところがありました。

弘中 番号というのは,陳述書の12ぺ一ジから13ぺ一ジの大見出しの11の次が13になってると,その点のことですね。

中西 そのとおり,はい。

弘中 年号というのは,何の年度か分かりますか。

中西 ええ,松井さんが科研費でナノの研究費をいただいているということを知ったのが2005年と書いたんですが,2006年の間違いでした。

弘中 それ以外は,特に訂正箇所はないわけですね。

中西 はい。

弘中 この陳述書の3ぺ一ジに,上から3行目ですが, 「1980年代後半から,私は環境リスク学の研究をはじめました。」というふうにあります。それから後,6行ぐらい下ですが,「環境リスク管理学への貢献ということで紫綬褒章を頂きました。」とありますが,環境リスク学と環境リスク管理学は,どういう関係になるんでしょうか。

中西 環境リスク学という言葉自体も,実は私が使い始めた言葉です。それからあと,環境リスク管理学というのは,私が英語でそれを,Environmental risk managementということを非常によく表現していましたので,紫綬褒章をいただくときに,その英語を日本語訳にして使ったということでした。私自身は,環境リスク管理学という日本語は余り使ってはいませんでしたが,内容としては同じものです。

弘中 環境リスク学においては,被告中西先生は,どういうお立場になるということになるでしょうか。

中西 私が環境リスク学というものを始めようと考えて始めましたのは,1980年代の中ごろ以降なんですけども,それ以前にも,環境問題について,人間の健康影響とか,環境影響をリスク評価をするという方は何人か,専門家としておられました。しかし,それは非常に部分的なものでした。私は,環境問題全体を考える枠組みとして,環境リスク学というものを提案し,提唱したものです。したがって,環境リスク学っていうと,多分,ほとんどの日本人の方は,私のことを考えていただけるんじゃないかと思っております。

弘中 陳述書の7ぺ一ジに「リスクコミュニケーションとは何か?」ということでお書きになってるわけですが,なお法廷で強調したい,あるいは補充したい点があったら,おっしゃっていただけますか。

中西 リスクコミュニケーションといいますのは,いろいろな影響,リスクっていう,いろいろな悪い影響の大きさとか性質とか,そういうものについて,立場の違う方同士の間での意見の情報を共有すること,情報をお互いによく伝え合って共有すること,もう一つは,リスクというのは,やはり人によって,これは大きなリスクだと思うのと,そうじゃないのがありますので,そのリスクというものをどのように考えるかという,その考え方,あるいは感じ方,そういうものを共有する,そのためのことをリスクコミュニケーションというふうに言います。

弘中 リスクコミュニケーション,今,おっしゃったことと,環境リスク学とは,どういうふうな関係というふうに考えればよろしいんでしょうか。

中西 リスクコミュニケーションというのは,リスクの大きさとか,リスクの性質を,お互いに,立場の違う人に理解してもらい,伝えるということですから,まず最初に,リスク評価というものがあるわけです。それが必要なわけです。そのことをすることが環境リスク学であり,環境リスク管理学であるわけです。そのリスクの大きさが,例えば,1であると,大体そういうふうに思えるようなことを,ある方が1万だというふうに大きく思ってしまうと,それを避けようと思って,実は100ぐらいのリスクは冒してもいいと考えてしまうと,かえってリスクが大きくなって,1のリスクを避けるために100のリスクを実は受け取ってしまうという,非常に矛盾したことになりますので,できるだけ,その大きさを正しく伝えていく。ただ,必ずしも正確な,1.1か1.5とか,そういうようなことはできない場合もありますが,大体,その大きさを正しく伝えるということが非常に重要です。そのことをやるのが,環境リスク学のもとになってるわけです。

弘中 本件で問題になってます「雑感」というホームページは,1998年4月から書き始めたということですが,どういう経緯で,こういうことをホームページで発信するようになったんでしょうか。

中西 私は,自分が研究したこと,知ったことを,なるべく大勢の方に伝える義務があるというふうに,ずっと考えておりまして,自分の考えとかそういうようなものを伝えるということに,非常にたくさん努力をしてきました。最初は下水道のことをやっておりましたので, 「下水道通信」という手書きのものを書いて,コピーして送るということをしておりました。そのうちに,だんだんそれが大きくなりまして,月刊で「水情報」という雑誌を発刊し,それは一定程度の料金もいただいて購読していただくというシステムを,ずっと続けてまいりました。ほぼ20年近く,そういうことを続けてきたと思います。しかし,インターネットという新しい手段が出てきて,それのほうが経済的にも安く,それから多くの人に影響力があるということで,「水情報」のほうは手を引きまして,そして,「雑感」というものを書き始めております。

弘中 やっぱりインターネットというか,ホームページのほうが便利,あるいは効果的ということはあるんでしょうか。

中西 非常に影響力が大きくなりました。「水情報」のときには,読者の数は,最高でも1500行かなかったと思います。そのために非常にたくさんのお金も,もちろん購読料はいただきましたが,相当,私も財政的な支出もいたしました。そのときも,議員さんとかそういう方にとっていただいて,大きな影響力がありましたが,インターネットの場合には,非常に早いレスポンスがありまして,行政の方がすぐに自分たちの政策を見直したりとか,そういうようなことが幾つもありました。

弘中 アクセスの数は,大体どの程度なんでしょうか。

中西 今,ナンバーリングで見ますと,週に8000ぐらいの感じです。

弘中 ホームページの記事の内容の更新は,どの程度の頻度でされてるんですか。

中西 毎週1回,行っております。

弘中 何か,こういうことを特に書くというか,発信するという,そういう基本的なスタンスとなったテーマはあるんでしょうか。

中西 まず第一に,環境問題について,できるだけ正しい情報を出したいということで,一つは自分自身の研究していること,あるいは周りの方の研究してる内容を,できるだけ,みんなに分かりやすく伝えるということがあります。もう一つ,さらにつけ加えますと,既にいろんなところで報道されていることや,ほかの方がいろんなところで書かれていることや言われてることについて,それの内容を,本当はこういう意味であるという,その意味を解説するということがあります。さらに,そういうものを批判するということもしております。

弘中 読者といいますか,アクセスする方は,どういう方が多いというふうなイメージなんでしょうか。

中西 いろいろな反応が,メールをいただいたり,さまざまな反応がありますところから判断しますと,正確なところは分かりませんが,基本的に専門家だと思っております。ただし,専門家といいましても,環境科学の専門家,及び環境科学以外の専門家が主であるというふうに思っており,もちろん,市民団体の指導者の方とかも読んでいただいていると思いますが,市民団体の指導者の方も,ある意味で専門家だというふうに,私は思っております。

弘中 今回の事件の一つのもとになってます,第7回の内分泌撹乱化学物質問題に関する国際シンポは,第7回以前までは,どういう方針で行われてきたのかということはご存じでしょうか。

中西 私,残念ながら,余りよく知っておりません。

弘中 今,申し上げましたシンポジウムと,環境ホルモン学会というのがどういうかかわりを持ってきたかということは,ご存じなんでしょうか。

中西 第7回の第6セッションの座長を頼まれたときに,当時の環境省の課長さんの上家さんから説明を受けました。それは,ある時期から,第3回かぐらいから,ほとんど環境ホルモン学会,内分泌撹乱化学物質学会ですが,そこにお任せするという形で運営が行われてきました。しかし,今度の第7会議の第6セッションのみは,環境省の意見を入れてほしいということで,中西を推薦し,そのように動くようになったというふうに上家課長から説明を受けました。そのシンポジウムは,常に環境ホルモン学会の学会とセットで,ほぼ前後して,同じような場所で行われてきたというふうに,そのときも聞きました。しかし,その第7回がありました後,第8回以後は,別々に開かれるようになり,さらに今年については,第9回については,内分泌撹乱化学物質に関するというのではなくて,化学物質のリスク何とかに関する国際シンポジウムというような名前になったというふうに聞いております。

乙第12号証を示す
弘中 今,おっしゃった上家さんというのは,ここにある上家さんですね。

中西 そうですね,はい。

弘中 乙12号証は,今回の裁判の証拠として中西さんからいただいたものですが,要するに上家さんの環境行政,あるいは化学物質の管理における考え方,あるいは認識ということを示してる一つの文書ということで提供していただいたわけですね。

中西 はい,そうです。

弘中 中西さんは,そもそも,環境ホルモンの研究というものに反対をしてこられたんでしょうか。

中西 環境ホルモンの問題が異常に大きな問題で,人類が滅びるとか,自然がみんな滅びてしまうという,そういう報道に対して,非常に強く反対し,なおかつ,ダイオキシンのリスクなどが非常に大きいというようなことについては,強く反対の意見を述べてきましたが,環境ホルモンの研究について,特に反対というようなことを言ったことはないと思います。それに,実は研究費の審査にかかわることなので,余り立ち入った話をすることはできないんですが,JSTという,日本では研究費をハンディングっていいますか,研究費を出す,大きな,文科省の系統のところが,団体,JSTが内分泌撹乱化学物質についてのクレスト研究って,crestというんですが,クレスト研究の研究費を立ち上げて,多くの研究者にお金を出して研究していただくということをするときには,私が案を作成いたしましたし,その研究統括の方のお名前も,複数ではございますが,推薦をいたしました。その研究が始まり,その研究費は,ほとんどが環境ホルモン学会の幹部の方たちが受けて,研究を行いました。

弘中 現在でも,環境ホルモンの研究をされているんでしょうか。

中西 私どもの研究室は,1987年ころから,ダイオキシンの研究を始めまして,ダイオキシンも環境ホルモンの一つだとすれば,ダイオキシンの研究を非常に長くやってまいりました。そして,ダイオキシンの発生源が実は古い農薬であるというようなことも出しまして,あるいはダイオキシンによるリスクの大きさがどの程度であるというようなことをずっと発表してまいりました。さらに,今の産業技術総合研究所では,環境ホルモンのリスクについて調査をし,そして,論文を出し,あるいは環境ホルモン学会でも発表し,出版物も出しております。その出版物は,昨年の1月に,詳細リスク評価書シリーズの1,「フタル酸エステル」というもので,一応,著者は私と吉田と内藤,3人で出しました。さらに11月には,「ビスフェノールA」という,一番問題になっていたもので,それについての冊子を,やはり丸善から出しまして,その著者は中西と宮本と川崎,この3人です。

弘中 本件のパネルディスカッションのことについてですが,原告の松井さんがパネラーに入った経緯を陳述書である程度,書いてありますが,なお補充,あるいはポイントとして強調したいことがあれば,おっしゃっていただけますか。

中西 パネラーは私と,私は最初に座長に選ばれまして,もう一人,副座長のような形で,京都大学の大学院の内山先生にお願いすることにいたしました。で,中西と内山先生とで,2人ずつのパネラーを選ぶということを取り決めました。私は,ジャーナリストで若い人,あるいは学生がいいというふうに考えまして,一人は山形浩生さんという新進気鋭の評論家の方をお願いいたしました。もう一人,学生がいいっていうふうに考えまして,東大に立花ゼミというのがあったんですが,そこの学生さんを探そうと努力しました。立花ゼミっていうのは,環境ホルモンが非常に危ないっていうことを非常に強調したゼミでして,「環境ホルモン入門」という本が出まして,それはすぐに10万部に達するような大きな反響を呼んだ本です。そこの編集責任をやる,ゼミの責任者でありましたミドリシンヤという若い人が,当時,学生がいました。ミドリシンヤさんをパネリストに選びたいというふうに思いまして,一生懸命,その所在を探しました。所在を突き止めました。で,お願いいたしましたところ,ご本人は,もう5年もたっているので自信がないということを申しました。私は,構わない,そのとき,どういうふうに考えたか,環境ホルモンの問題をどう伝えたいと思ったのか,それを聞きたいんだということを申しましたが,本人は,最近勉強してないので恥ずかしいということで断られました。そのときに,ミドリさんが,日垣さんがいいんじゃないかと,あんなに勉強してる人はいないと,環境ホルモン問題についてあんなに勉強してる人。私は,非常に有名な方ですし,お忙しいでしょうから無理でしょう。いや,大丈夫ですよ。実はミドリさんという方は,半年だか1年だか,ちょっと日垣のところにも出入りを。

弘中 もうちょっと端的に。

中西 そういうことで,日垣さんにお願いしました。それから,今度は内山先生のほうですが,内山先生は当初,吉川先生と,それから松井さんを推薦してこられました。吉川さんは,厚生省のほうの研究でリスクコミュニケーションについての研究をしていた方だから,その方がいいという推薦理由を述べました。松井先生については,論客だからいいと思うというふうに言われましたので,私は,それでいいですというふうにお答えいたしました。そうしましたら,そのすぐ後に,もう一人,木下先生を加えてほしいということでした。しかし,時間がありませんので,3人ではなく,2人にしてくださいということをお願いしましたが,どうしても3人必要ですと言われるので3人になり,私が推薦する人が2人,それから,内山先生が推薦した人が3人。5人ということで出発することになりました。

弘中 原告の松井さんとのことについてですが,このセッションが始まる前に,どういう内容の発表をしていただくかというアブストラクトが事前に出されたわけですが,そのアブストラクトについては注文をつけて,内容を変えてほしいという要請をしたことがございましたね。

中西 はい。

弘中 どうして,そういうふうにされたんでしょうか。

中西 アブストラクトを拝見いたしましたが,今回のシンポジウムの第6セッションの趣旨と非常に大きく外れているというふうに思いました。第6セッションは,そもそも,リスクコミュニケーションをどうすべきかということを議論するはずですが,さまざまな汚染のことや,マイクロアレイのこと,あるいは環境ホルモンそのもののことが書いてありましたので,これでは困るということで,これは変えていただいたほうがいいというふうに思いました。もともと,内山先生のご推薦ですので,内山先生にご意見を伺いました。そうしましたら,内山先生も,これではやっぱり困りますねということでした。それで,じゃ,内山先生から松井先生にそのことを伝えてくださいと私が申しますと,内山先生が,ちょっと私はもう,というようなことで,中西先生がやってくださいと言われましたので,私がメールを出しました。

乙第11号証を示す
弘中 10ぺ一ジが,そのメールを転載したものですね。

中西 はい。

弘中 ここで,1)から6)までありまして,このうち,原告のほうでは,3)と4)について,自分は話すことにしたと,そういうつもりだったというふうにおっしゃってるんですが,3),4)というのは,どういう趣旨で,中西さんはお伝えしたんでしょうか。

中西 リスクコミュニケーションについて,内分泌攪乱化学物質だからこその問題点は何か,あるいは,リスクコミュニケーションについて,学者として何が大事か,何をすべきかということを書いてほしいということを申し上げました。あと,後ろのほうにいろいろな,環境ホルモンそのものじゃなく,リスクコミュニケーションについてご意見を出してくださいということを重ねて要望しております。

弘中 松井さんは,その要望を了解されたんですか。

中西 分かりましたというメールをいただきました。

弘中 結果として,そのセッションの当日の松井さんの発表内容というのは,中西さんがアブストラクトについて注文を出されたことに適合するものだったんでしょうか。

中西 非常に意外だったんですけれども,やはり,ほとんどの説明が環境ホルモンそのものの説明であり,ご自分が発見されたインディルビンなどのお話だったんです。それで,リスクコミュニケーションのことについて話していただきたいとお願いしてるにもかかわらず,どうしてこういうことになったのかなということで,非常に意外といいますか,不思議な気がいたしました。

弘中 そのことを含めて,松井さんの発表について感想や意見があったとしたら,その会場の場で,すべてそれは批判なり発表するべきではないかというようなことが原告から言われてるんですが,その点についてはいかがなんでしょうか。

中西 松井さんは,フォールスネガティブとフォールスポジティブと,間違ってマイナスと言ってしまう,実際,有害性があるのに,有害性がないと言ってしまう,そういうようなことと,フォールスポジティブ,逆のケースについて意見を出しました。そのことについて,私は,会場で,そういうことでは簡単には解決つかない,たとえ安全といっても,非常に危険だということを強調すればいいという問題ではないってことを言いました。そのことは非常に,全体として共通の課題であったと思いましたので,そのことについては述べました。しかし,私が後で言うようなことについては,そこでの共通で議論すべき問題と思わなかったのと,あとは時間がなかったというようなことで,それ以上は述べませんでした。

弘中 本件で,このシンポジウムが終わった後の「雑感」に,いろいろと事実経過とかご意見をお書きになりましたね。

中西 はい。

甲第1号証を示す
弘中 7分の6ぺ一ジの箇所ですけれども,本件の問題になってる,松井三郎さんがスライドを見せて,次はナノですと言ったので驚いた云々と,ここからこのページ前半は,どういうことをおっしゃりたかったんですか。

中西 リスクコミュニケーションというのは,どうやって,できるだけありそうな姿で,そのリスクのことをみんなに伝えるかということでありますから,そのことをどうしたらうまくできるかという,誤解が起きやすい事柄をどうやって誤解なく行っていくのかということを議論している場です。そこで松井先生が言われたことは,急にナノのことが出てきまして,そして,しかも,すごいショッキングな,大きな新聞の見出しのついたものを出して,それでだったので,これは困るなと,リスクコミュニケーションを議論する場で,最もリスクコミュニケーションとして間違ったようなことをやってしまってるなというふうに思いまして,そのことについて書きました。さらに,しばしば,さまざまなところで大学の先生が,いろんなリスクについて,いろんなことを言うことがあって,それについて気がついたことがありましたので,それを書きました。

弘中 リスクコミュニケーションの具体的なやり方というふうなことについて,産業構造審議会の委員会のほうで,一つの手順といいますか,注意書きといいますか,そういうことを提示してるというようなことはございますか。

中西 産業構造審議会の委員会の中で,1日割いて,その議論をしました。そこで,その手順についての資料というのが出されました。その資料は,そもそも,中下弁護士も委員をされている,環境省の化学物質に関する円卓会議というところで出されたものの引用なんです。そこでは,こういうようなリスクコミュニケーションの場合に,どういうふうにしたメッセージを作成すればいいかというようなことについて書いてます。そして,そこでは4項目を挙げておりまして,できるだけ専門用語を使わないこと,2番目に,メッセージを明確にすること,3番目に,根拠を明らかにすること,4番目に,幾つかの根拠を示して,みんなが検証できるようにすること,こういうようなことを挙げております。

弘中 本件での,原告のナノについての言及ということは,今,おっしゃったような4つのポイントからすると,どういうことになるというふうにお感じになりましたか。

中西 まず,ナノについて,本当に有害かどうかというようなことは,よく分からない状態で,こういうものを皆さんに知っていただくときには,相当,注意が必要だと思います。もちろん,そこの新聞で取り上げられているもとの論文についても,幾つかの問題があり,その伝える新聞にも,またちょっと誤りがあったり,ある部分だけ非常に大きく出てきたりというようなことがありますので,そういうものについては,きちっとそういう注意をした上で伝えなければならないというふうに思います。

甲第1号証を示す
弘中 そこで,新聞記事のスライドを見せて,次はナノですと言ったのには驚いたとありますが,これは,何について,何に対して驚いたということでお書きになったんですか。

中西 リスクコミュニケーションはいかにあるべきかということを議論している場で,しかも,そういう場でリスクコミュニケーションでやってはいけないと,ほとんどの人がみんな共通に認められるようなことをしてしまっているということに,非常に驚きました。

弘中 その新聞記事のスライドを見せられたわけですが,記事の本文は見えたんでしょうか。

中西 本文は読めませんでした。

弘中 見出しについては,どういう印象,あるいはどういうふうなことが認識できたわけですか。

中西 「ナノ粒子脳に蓄積」という大きな見出しだったわけですが,それを見まして,ちょうど数日前に読んだ論文の新聞紹介だなというふうに,まず思いました。で,もしそうであるとすれば,これは相当問題のある論文,論文自体に非常に問題があるので,この新聞記事は大いに問題があるというふうに思いました。

弘中 ところが,前回,原告が証言に立たれて,確かにナノについての説明は時間がなかった関係で短かったかもしれないけれども,そこに至る環境ホルモンについてのお話なり,スライドというものを追っていけば,ナノの問題は環境ホルモンの問題と共通してると,同じ構造を持ってるということで,自然にどういうニュアンスでナノ粒子の問題を取り上げてるかということは,ちゃんと聞いてる人には分かったはずだと,こういう趣旨のことをおっしゃったように思うんですが,その点についてはいかがでしょうか。

中西 環境ホルモンの問題と,ナノの問題が非常に共通性があるということは,非常に考えにくいです。もちろん,あのスライドを見てても,それはそういうことが示されていませんけれども,まず,非常に考えにくいことです。これは,後から松井先生が説明されてることで,実は,その解毒機構がないと思った,蓄積するんではないかと思ったということですが,ダイオキシンなどの解毒機構と,それからナノ粒子に,粒子だからこそある問題点,その解毒機構の問題は,片っ方は粒子,粒であるということから来る問題ですから,根本的に違ってます。ただ,もちろん,ナノ粒子の中には,環境ホルモンの性質も持ったものもあるかもしれません,ナノ粒子といっても,大きさを示してるだけですから。しかし,最初にナノ粒子というふうに考えたときには,そういうものがないので,非常に共通性がないと思う。もう一つは,ダイオキシンの環境ホルモンとしての特性は,HRという,リセプターにくっつくということなんですが,それもナノ粒子で問題になってるものについて,つきませんから,そういう意味では,非常に分かりにくいというか,その共通性というものを推測することができない。ナノ粒子は細かいので,肺の中にたまってしまうんではないかということが,もちろん,一番最初に疑われますし,そのようなことが多く言われてます。昨年,産業医大の田中先生たちが発表しました研究があります。それは,酸化ニッケルと二酸化チタンについて,ナノの粒子をラットに,ほぼ1カ月間,吸入させた後,肺から,どのぐらいのスピードでそのナノ粒子がなくなっていくかということを調査したものです。その半減期,半分になる期間ですが,酸化ニッケルについて2カ月,二酸化チタンについて2.5カ月です。もちろん,まだこれは予備的な実験なので,数字が完全にいいとか,そういうものではございませんが,ダイオキシンなどの数年とか,10年とかいうようなものとは,大きく違っております。

弘中 今,解毒機構というか,排出機構のメカニズムが違ってるという点と,半減期が違うということをおっしゃったわけですが,それらについても,法廷で松井さんが,どういう点で共通してるかということを説明された上で,初めていろいろと考察をした,その内容をおっしゃったわけですね。

中西 そうです。ですから,シンポジウムの現場では,解毒機構が問題でナノと共通性があるとか,そういうようなことも一切,言っておりません。その陳述書とか,それからあと,この前のご説明とかで,ああ,そういうことを言っているんですか,しかし,それは違いますよというのが私の主張です。

弘中 そのシンポジウムの現場では,環境ホルモンについての説明が,ナノに自然に共通して言えるんだとか,そういう印象は全く持てなかったわけですか。

中西 はい,その前に示されたスライドから見ても分かりませんし,言葉での説明は一切ありませんでしたから,それは全く分かりませんでした。

甲第1号証を示す
弘中 そこで,要するに環境ホルモンは終わった,今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である,これは,どういう意味内容をお書きになったんでしょうか。

中西 次はナノヘのチャレンジだというふうに言われましたので,ああ,そういうふうに松井先生は考えておられるんだなというふうに受け取っただけです。

弘中 これは,松井先生が環境ホルモンの研究をやめて,ナノの研究のほうに入ってきたというふうに受けとめたんですか。

中西 松井先生が環境ホルモンの研究をやめるっていうことも考えませんでしたし,あと,ナノの研究をしているとは全く考えませんでした。といいますのは,私どもの研究所は,ナノについて出ます論文,年間6000ぐらい,世界中のいろんなデータベースで集めまして,その中から,私どものところは,有害性に関する論文のリストが全部,そのタイトルとか何かが来ます。それを,1995年ぐらいのところから全部見てますが,松井先生の名前とかを見たことはありませんので,松井先生がナノの研究をしてるなどということは,考えたこともありませんでした。

弘中 そうすると,この環境ホルモンを終えてナノに移るという主体ですが,だれが移るという趣旨なんですか。

中西 そういう社会的な状況であるというふうに言っていると思いました。

弘中 要するに,社会として取り組んでいくテーマが,環境ホルモンからナノに移ってきていますということを松井さんがおっしゃってるんだなというふうに受けとめたわけですね。

中西 はい。

乙第11号証を示す
弘中 陳述書の12ぺ一ジで,「環境ホルモンは一段落した,つぎは,ナノ粒子の有害性が大きな問題になると言っている」というのも,今,言ったような意味合いでおっしゃってるわけですね。

中西 そのように理解しました。

弘中 その後でも結構ですが,原告松井さんのほうでナノの研究を始めたということがあるかどうかについては,どういうご認識ですか。

中西 私は,松井先生がナノについての研究をしてるとは全く思っていなかったんですけども,今年の初めごろに,ある大学の先生から,科研費で松井先生がナノの研究の研究費を受け取っているということを聞きましたので,それは非常にびっくりいたしました。びっくりしたというのは,そのことを始めたっていうこともそうなんですけども,ナノに移ったということで名誉毀損だっていうようなことを言われていたので,どうも何かよく分からない,何が問題なんだろうという,そういうことで非常に不思議,別にナノの研究を始めること自体は,普通であれば,別にどうってことはないと思うんですけども,そういうふうに言われておりましたので,非常にびっくりいたしました。

乙第8号証及び乙第9号証を示す
弘中 これを作ったいきさつは陳述書に書いてありますが,これだけのものが集まってきたということについては,どういうふうにご認識ですか。

中西 何か応援をしたい,署名をしたい,署名運動をしたいというような,たくさんの方からのお話がありましたが,署名運動というのもどういうものかなというふうに思っておりましたので,それでは,個人個人のご意見を出していただくということで,裁判所のほうに提出して,判決の足しにしていただきたいというふうに考えるようになって,お願いをしたわけですが,思ったよりもたくさんの方からいただきました。しかも,これは一応,住所もお名前も全部,出すということですから,実はお勤めしてる方にとっては,随分,大変なことだと思うんですけども,そういうことをいとわず,ご自分の住所とお名前を書いて,こういうたくさんのご意見を出していただけた。しかも,お一人お一人が,非常に違う側面からこの問題を考えて,自分の問題としても考えてる,社会の問題としても取り上げてるという,そういう真剣さというものを非常に感じました。

弘中 これを書いてくださった方の中には,毎回,傍聴に来られてるという方もいらっしゃるわけですか。

中西 それはおられると思いますが,それほど多くはないと思います。

弘中 傍聴に来られてる方の関心といいますか,動機がどこにあるのかということを含めて,最後に何か,裁判所のほうに申し上げたいことがあったら,まとめていただけますか。

中西 傍聴に来られてる方の多くは,必ずしも私の今までの研究とかいうことは知らない人が多いと思います。初めてこういう裁判というものを知って,こういうインターネットなどで意見を公表し,お互いに批判し合うというようなことが,こういうことで名誉毀損だなということで訴えられてしまうと,みんなが自由に発言したり,批判をしたり,批評をしたりする,そういうことが,そがれていくと,そういうことを非常に恐れているという方がかなり多いといういうふうに思います。もちろん,個人的に私を応援したいという方もおられると思いますが,どちらかというと,今回のことで初めて知り合った方が多いというふうに理解しております。裁判所にお願いしたいことは,やはり私は,もちろん,この中のいろんないきさつとかいうのはあると思うんですが,一番私が大事に思ってることは,事実ということなんです。最初,訴えられましたときに,松井先生はこういうことを説明したのに,おまえは分かっていないというようなことで書かれましたが,実際にテープが出てきましたら,全くそういうことを言っておられなかったんですね。で,そういう事実が違ったにもかかわらず,その違ったことを認めないままに続けてご主張される。事実に対して,本当にもっと真剣であってほしいし,裁判所もそのことを大事にしてほしいと思います。以上です。

 


 

原告(反訴被告)代理人(中村) あなたは,2005年1月25日に,あなたのホームページに,雑感289,謝罪という記事を書いていらっしゃいますね。

中西 はい。

中村 これは,だれに対する謝罪ですか。

中西 一つは,読者の方への対する謝罪で,もう一つは,そのとき受け取った,松井さんからメールをいただいたときに,もしかして私,自分が間違ったかなと思ったんです。それで,もし間違ってたら,松井さんに申し訳ないなと思いました。ですから,もちろん,3月末までに調べますということでしたんですけども,それまでの間,やっぱり,もし間違いであったら申し訳ない,そういう気持ちで謝りました。

中村 では,松井さんに対する謝罪も含まれているということでしょうか。

中西 もし間違いであれば悪いなと思って,もし間違っていた場合は謝らなければいけない,そういう意味です。

甲第2号証を示す
中村 最初の1行目,2行目で,この記事,雑感286の本文を削除いたしました,申し訳ありませんと書いてありますが,これはだれに対して申し訳ないとおっしゃってるんですか。

中西 基本的には,これは読者の方ですが,先ほども申し上げましたように。

中村 読者に対して。

中西 先ほども申し上げたように,私は,申し訳ないというのは,読者の方と,もし間違いがあったら,松井さんにも申し訳ないことをしたなと思って,それで謝罪という記事にいたしました。

中村 次の1,2という番号が振ってありますけれども,まず1番で,お二人の方から抗議がありましたと書かれていますが,このお二人の方というのは,具体的にはだれですか。

中西 お一人は松井先生です。もう一人は,どこかで,もしかしたらお名前を書いてるかもしれませんが,ここでお名前を言わなきゃいけないのかどうかということはちょっと分かりません。言ってもよろしいものなんでしょうか。ご本人が・・・。

裁判長 ご自分の判断で結構です。

中西 言いたくないというような雰囲気。

裁判長 それでも結構です。

中西 じゃ,すいません。

原告(反訴被告)代理人(中村) 同じく,第6セッションのパネラーだった吉川肇子さんではありませんか。

中西 ご想像に任せます。

中村 2番目に,さらにお一人の方から,スチレン低量体に対する記述が間違いであるというご指摘をいただきましたとありますが,これはどなたからの指摘なんですか。

中西 このことについては,私はいろいろ,その方とメールをやりとりし,自分の間違いだとか,あるいは考え方の違いとかいうものについて考えを出し,それで見ていただいて,それを私の雑感のところにアップいたしました。そのときに抗議があったこと,その方からの抗議の文章,抗議の内容などについても,雑感に掲載したいということをお願いしましたが,お名前も含めて一切,秘密にしてくださいという申出をいただきましたので,雑感にも書きませんでしたし,ここでもお名前を申し上げることはできません。

中村 その方から,一切,秘密にしてほしいと言われたというのは,どのようにして言われたんでしょうか。

中西 多分,メールだと思います。メールが残っているかと思います。

中村 一切,秘密にしてほしいと言われたんでしょうか。

中西 はい,一切秘密に,一切それを出さないでほしいというふうに言われました。これは,余り言う必要もないことかと思いますが,松井先生と同じだと思われたくないですというふうに書いてありました。

中村 こちらで拝見してるところによれば,そのようなことは書いてなくて,「私自身」というのはその抗議をされた方なんですが,私自身,名前を隠したいとは思いませんが,ただ,ホームページ上で中西先生と私がバトルしているなどということをおもしろおかしくマスコミに取り上げられたくありません,そういうふうに言われたのではないですか。

中西 もしそれでしたら,そうかもしれませんが,いずれせよ,私は,名前を出してほしくないということを,そのものを,いただいた抗議のメールもアップしたいんですがと言いましたが,それも断られたというふうに記憶しております。

甲第2号証を示す
中村 あなたの陳述書の乙11号証に,ここで謝罪をされた理由が書かれていないのですけれども,なぜ,原告の抗議に対して謝罪したんですか。甲2号証で謝罪という記事を書かれた理由が,あなたの陳述書には書かれていないのですが,なぜこのようなものを書かれましたか。

被告(反訴原告)代理人(弘中惇一郎) 重複じゃないでしょうか。

裁判長 質問の仕方を変えてください。

原告(反訴被告)代理人(中村) あなたが原告,松井さんも含めて謝罪をしたと,先ほど,おっしゃいましたけれども,もし間違いであったら,申し訳ないので謝罪しようと思ったと言われましたね。

中西 はい,そうです。

中村 それが理由なんですか。

中西 はい。

甲第2号証を示す
中村 1,2と書かれたその下の行をご覧ください。1に関しては,確かに私に非があると思いましたと書かれてらっしゃいますね。非があると思われたんじゃないんですか。

中西 これは,この日というのは何かといいますと,もう一方から,議事録を使って議論してほしいという要望がありまして,それは,もしかしたらそういうご希望があるか,ただ,それは,そういうことをし出すと,実は議論ができないというのがあるんですが,そういう要望があれば,それはそういうふうに受けたいというふうに思いました。それから,松井先生のことについても,私は,松井先生のメールを見まして,もしかして自分が間違いかなというふうに思いましたから,後で新聞記事を見て,全く間違いがなかったんですけれども,もし自分が間違いがあるとすると,非があるなというふうに思いました。

中村 そのような場合には,確認してからというふうにお書きになるんじゃないですか。私に非があると思いましたというふうにお書きになる必要があるんでしょうか。

中西 それは,私の性質だと思います。悪いことをしてしまったかなというふうに思ったんです。

中村 この記事には,だれから,どのような抗議があったのかということを全く記載していらっしゃいませんね。それはなぜですか。

中西 そういうお名前を載せないほうがいいかというふうに考えたからです。

中村 でも,松井さんに関して言えば,あなたは,松井さんの名前を出して,甲1号証,本件で問題になっていますホームページを書かれたわけですね。それに対して抗議があった場合に,その抗議があったということについては名前を出さないほうがいいとお考えになったのは,なぜですか。

中西 その新聞記事のことについて確かめた上で,こういう事情だったと,それで松井先生のご意見は,もし松井先生のご了解をいただけるんであれば,この第2番目の人と同じように,私はお願いしたと思います。このお手紙,抗議の手紙を,メールを掲載させていただきたい,私の 考えはこうですということを載せたいと思ったと思いますが,そういう事態にならなかったということ。この時点では,名前を出さないほうがいいというふうに,抗議のメールをアップしないほうが,相手に対して失礼でないというふうに思ったんです。

中村 でも,メールでしたら,その日のうちにやりとりが,瞬時にできるわけですから,ここで抗議文を載せましょうかと,載せてもいいですかとお聞きになったらどうでしたか。

中西 それは,もしあれでしたら,ご要望があったら,言っていただければ,すぐにでもアップいたしました。

中村 何も言われなかったから,出さなかったということでしょうか。

中西 何も言われなかったので,むしろ,お名前を出さないほうがいいのかなというふうに思いました。

乙第11号証を示す
中村 12ぺ一ジの9項で,あなたのホームページについてのスタンスについてお書きになっていらっしゃるんですけれども,その一番下の部分に,「間違いもありますが,指摘されれば直ちに修正するというスタンスです。」とお書きになっていらっしゃいますね。

中西 はい。

中村 指摘されて,これを直ちに対応しようとなさいましたか。

中西 すぐに私が自分が間違い,最終的には私,間違いがなかったんですよ,で,間違いがなかったわけですが,そのときは,もしかしたら間違いかなというふうに思いましたので,それを調べてから対処いたしますというふうにお返事をしたわけです。

中村 最終的に間違いがなかったと思われたのは,いつですか。

中西 それは,私が京都新聞の記事を入手できなかったんですね。それで,京都新聞の記事が出されたということは分かってたんですが,その京都新聞の記事をどうしても入手することができなかった。そのできなかった理由というのは何かといいますと,私は,インターネットでのデータベースで,常に新聞の記事を見ているわけです。そこに,何回探しても,京都新聞のその記事のところがないわけですね。京都新聞について,徹底的に調べるんですが,どうしても見つからない,それで,おかしいな,おかしいなっていうことで時間をとっておりまして,最終的に,私は,3月末まで,年度末までにやりますということをホームページ上でも言ってますから,で,調べて,松井先生のところにもう一回,調べた。で,最終的に,それはいつでしたか,4月になってからだったんじゃないでしょうかね。新聞記事を,ちょうどここの近くにあります新聞博物館,そこで入手しまして,ああ,そうか,私のは間違いじゃなかったということが分かりました。なぜインターネットで出なかったのかというのが,後で分かったんですけども,実は,その記事は共同通信の配信の記事なので,京都新聞のほうで,それをネット上に載せられないという事情があったというふうに,それはほかの方の解釈なんですが,そういう説明を聞きました。私は,ネット上にすべてが,データベースであるもんだと思っていたために,確かめることができませんでした。しかし,私が当時,書いたときに思ったのと,全く同じ記事でした。

中村 それは,抗議があったものに直ちに対応するというあなたのスタンスに沿うものなんでしょうか。

中西 非常に,年度末で忙しいときでしたので,とりあえず,直ちに対処したのは,ウィズドローしたということです。ですから,直ちに取り下げました。しかし,少し時間をかけて調べますということを私は言ってるわけです。

中村 調べて,新聞が見つからないので,新聞記事をいただけませんかというふうに原告に連絡をされたのが,3月の末ではありませんでしたか。

中西 3月の末までにやらなければいけないというふうに考えておりましたので,3月13日でしたか,松井先生にメールを差し上げました。

中村 なぜ,3月の末までにやらなければならないとお考えになったんですか。

中西 そこに,3月末までにということを宣言しましたから。

中村 あなたが3月末という期限を設定されたんですよね。

中西 そうです。

中村 それは,抗議をした人にとっては,先過ぎる期日だというふうにはお考えにはなりませんでしたか。

中西 ウィズドローしてますし,もしそれが先過ぎるのであれば,松井先生のほうから,そういうふうなご意見をいただけると思っております。

中村 そうすると,抗議をして,さらに対応が遅ければ催促してくるだろうと,そういう認識ですか。

中西 対応が遅いという抗議はいただいてません。

中村 それは,何らかの理由でそういう謝罪をしなければならないという立場にある方の常識的なやり方だというふうに,今,お考えですか。

中西 ちょっと分かりません,それは。

中村 2004年12月の本件で問題になっておりますシンポジウムまでに,あなたは,原告が環境ホルモン問題について,どのようなスタンスで研究をしてきた研究者であると認識されていましたか。

中西 環境ホルモンのことについて研究しているということはよく知っておりましたが,いわゆる,環境ホルモンの研究者の中には,非常に環境ホルモンの影響を,人類が滅びるとか,地球全体がだめになるというようなことを言う人たちがいっぱいおりますが,松井先生はそういう方ではないというふうに,私は思っておりました。と申しますのは,たしか2000年ごろに,琵琶湖に入る河川についての環境ホルモンについての研究をされていて,その報告を新聞で読んだことがあったんですけれども,いわゆる,そのとき,当時はノニルフェノールが大変だとか,ビスフェノールAが大変だとか言われてるときに,むしろ人間の出した尿とかそういうものによる影響のほうが大きいという,非常に冷静な報告をされていましたので,そういう方とは思っておりませんでした。

中村 そういう方というのは,どういう。

中西 そういう,環境ホルモンが大変だ,大変だといって騒ぐような感じの研究者というふうには思っておりませんでした。着実な研究をされている,そういう方だと理解しておりました。

中村 このシンポジウムのアブストラクトについてなんですけれども,先ほど,アブストラクトがこのセッションの趣旨から非常に大きく外れていると思ったというふうにお答えになりましたね。

中西 はい。

甲第4号証を示す
中村 そのアブストラクトの訂正について,先ほどあなたが言われた松井先生とのやりとりというのは,そのメールのことでしょうか。アブストラクトをめぐるやり・・・。

中西 アブストラクトについてのメールはこれです。

中村 先ほどの陳述書の中には,1)から6)という項目で挙がっていたんですが,この中には,?から?という項目で挙がっておりますけれども,「今回は,リスクコミュニケーションについて,以下のどれかまたは全てについてご意見を述べて頂くのがいいのではないかと思っています。」というふうに書いてありますね。

中西 はい,そのとおりです。

中村 以下のどれか一部でもよろしいのではないですか。

中西 結構です。

中村 後のほうに,「以上は,私の希望にすぎません。お話されるのは先生ご自身ですし,最終的な先生のご判断は100%尊重致す所存です。」と書かれましたね。

中西 はい。

中村 そうしますと,何をどのように,このセッションで松井さんが話されるかについては,松井先生にゆだねられていたということですね。

中西 質問の趣旨がよく分かりませんが,当然,会には,会としてこういうテーマというのがございます。そのテーマに沿ってお話をしていただくのは当然ですが,余り細かいことまで,発表者の方に注文をつけるのはどうかなというふうに思って,考えております。

中村 当日のセッションの始まる前に,事前の打合せをされましたか。

中西 そうです。ありました。

中村 このときに,原告の松井さんから,中西さんと共同座長の内山さんに対して,前半15分で内分泌撹乱物質だからこその問題点について話し,2回目の発言の機会に,学者として何が大事か,リスクコミュニケーションについて話すという説明がありませんでしたでしょうか。

中西 覚えておりません。

乙第5号証の2を示す
中村 15ぺ一ジです。今回,あなたがホームページの中に書かれた松井さんの発言部分が終わった部分なんですけれども,松井さんの発言が終わったところで,共同座長の内山先生が,ありがとうございます,後半での第2ラウンドにコミュニケーションのことをお話しいただけるということでしたので,お願いいたしますと書かれています。それはよろしいですね。このような発言が内山先生からあったということについてはよろしいでしょうか。

中西 それは,そこに書いてあるとおりだと思います。

中村 内山先生がこのように発言されたということは,どういう段取りで,何を松井さんが話すかということについて,事前の打合せで聞かれていたからだと思うんですが,あなたは,それを聞いた記憶がないということなんでしょうか。

中西 私は,その議事録を読んだときに,こういうふうに思いました。リスクコミュニケーションについて話さなければならないのに,前半の部分で全然,話していただけなかったので,後半の部分でこそ,話をしてくださいというふうに内山先生は言ってるのだなというふうに,私は思っておりました。

中村 それはあなたの,これを読まれた解釈ですね。

中西 そうです。

中村 あなたは,原告の発表を全部,聞いていらっしゃいましたか。

中西 はい,聞きました。

中村 原告の発表の内容は理解されましたか。

中西 どうか,それはちょっと難しいです。あるいは分かってないところがあるかもしれませんし,あるいは誤解してるかもしれません。

中村 原告は,環境ホルモンは終わったと言ったのですか。

中西 私は,次はナノヘのチャレンジだというふうに松井先生が言われましたので,ああ,そういうことを言っているのかというふうに受け取りました。

甲第1号証を示す
中村 7分の6ぺ一ジの部分です。これはあなたのホームページですけれども,松井三郎さんが新聞記事のスライドを見せて,次はナノですと言ったのには驚いた,要するに環境ホルモンは終わった,今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味であるというふうに書かれていますね。

中西 はい。

中村 要するに環境ホルモンは終わったと,それはあなたが,松井さんが環境ホルモンは終わったと言ったのだというふうに書かれているんですね。

中西 言ったと書いてません。

中村 趣旨,意味ですか。

中西 そういうふうに受け取りました。

中村 それから,今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味であるというふうに受け取られたわけですね。

中西 そうです。

中村 この部分の意味について,あなたは,陳述書の12ぺ一ジ,11項で,「環境ホルモンは一段落した,つぎは,ナノ粒子の有害性が大きな問題になると言っていると私はうけとめました。」というふうに書かれているんですが,これは微妙に表現を変えていらっしゃいますね。「終わった」と「一段落した」というのは,同じでしょうか。

中西 表現の問題というふうに思います。

中村 ナノ粒子の有害性を問題にしようというホームページの本件記事の表現と,あなたの陳述書の,ナノ粒子の有害性が大きな問題になるというのは,同じでしょうか。

中西 同じような気がいたしますが,違うんでしょうか。

中村 ナノ粒子の有害性を問題にしようというのは,松井さんがナノ粒子の有害性を問題にしようと,そういうふうに書かれているのではないですか。

中西 この部分は,私は,先ほども申し上げましたように,松井さんがナノ粒子の研究をするっていうのは,全く考えていませんでしたので,松井さん自身がそういうことをするなんていう意味では受け取らなかったですね。要するに,社会として非常に大きな問題だと,次の問題はナノですよと言っている,そういうふうに受け取ったんです。

甲第8号証を示す
中村 13図の新聞記事がスクリーンに映されているとき,これは見えなかったのですか。

中西 見出しは見ることができました。

中村 あなたは,ステージのどこに座っておられましたか。

中西 このスライドの,スクリーンの前に座ってましたが,常に後ろを見ながら,スライドは見てました。

中村 そうすると,スライドを見ることはできるんですね。

中西 ええ,もちろんです。

中村 原告が示したほかの図も,よくご覧になりましたですか。

中西 はい。

中村 原告が13図の前の第12図までを示して,環境ホルモンの解毒機構について説明していたことは分かりましたか。

中西 例えば第11図ですか,これは解毒機構ではありませんよね。

中村 12図はどうですか。

中西 12図は,解毒も入ってはいますが,全体的にベンゾ(a)ピレンの体内での代謝のメカニズムを示している図だと思います。

中村 というふうに解釈されたわけですね。

中西 そうです。

甲第1号証を示す
中村 上から6行目からのところですが,スライドに出た記事が何新聞の記事かは分からなかったし,見出しもよく分からなかった,私の後ろにスクリーンがあり,ナノ粒子の有害性のような記事だったが,詳しくは分からなかった,読み取れなかったとありますが,これは,ご覧になれなかったという意味ではない。

中西 ええ,見てます。

中村 あなたは,原告の発言について,要するに環境ホルモンは終わった,今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味だという意味の発言をしたというふうにとらえられたわけですが,それまでの原告の研究について,それなりにご存じであった中西先生からすると,原告がそのような発言を突然するということについては,とても不思議には感じられませんでしたか。

中西 いや,個人のことを,したがって,ご自分がナノ粒子を始めるとか,環境ホルモンをやめるとか,そういうことは,今までの松井先生のことや,私どもの研究所がナノについての論文についてはほとんどサーベイしているということから,全く考えませんでした。

中村 そうすると,次はナノですと言ったのには驚いたというこのホームページの記載は,どういう意味なんでしょうか。

中西 それは,先ほど,主尋問でありましたときにお答えしましたように,リスクコミュニケーションをいかにすべきかということを考えるシンポジウムで,最もやってはいけない,リスクコミュニケーションとしてはやってはいけない方法で新しい問題の提示を行った,そのことにひどく驚いたんです。

中村 そうすると,このセッションがそういうことをまさに主題にしているものであるにもかかわらず,最もやってはいけないことをやったと,そういうふうにとらえられたので驚いたというふうに受け取ればよろしいですか。

中西 そういうことです,はい。

中村 そのことを,なぜ,その場で原告におっしゃらなかったのですか。

中西 先ほども申し上げましたように,その後に松井先生,フォールスネガティブ,フォールスポジティブというようなことを言われています。そちらのほうがより根本的な問題かなというふうに思いまして,そこで取り上げました。ただ,すべてを座長が取り上げるというものではないと思ってます。

乙第11号証を示す
中村 12ぺ一ジ,第10項ですが,「「まさに,こういうことがあってはならないということが今日の議題のはずなのに,何を言っているのか」と驚き呆れてしまったのです。」と。

中西 はい,そのとおりです。

中村 まさに,こういうことがあってはならないということが今日の議題なのに,そのことについて触れないというのは,議長の職責として,余りにももったいないとは思いませんか。

中西 議長の采配の仕方で,そのとき,何を重要と思うかという,たった1つか2つだけのことを取り上げるわけですから,大勢の方も発言されてますし,そういう選択を議長としてしたと,大勢の方の発言の中から,ここで議論をすべきものは何と何かと思って,選んで,たしか3点ぐらいを選んで,抽出して,後の議題にしたと思うんですが,その中には入らなかったというだけのことです。

乙第11号証を示す
中村 11ぺ一ジ,第7項ですが,あなたが松井さんの今のような,驚きあきれるような発言とあなたが言われるようなことについて,その場で批判をしなかったのは,「時間も少なく,座長が意見を言うより,他のパネリストの方の発言の時間を確保しなければならないということに,気をとられていたからです。」と。

中西 そのとおりです。

乙第5号証の2を示す
中村 これは,パネリストの方の発言が一通り終わって,あなたが司会を引き継がれた直後の発言なんですが,28ぺ一ジの真ん中から下の中西というところですが,質問の前に,プレゼンテーターのお話の中で気がついたことを,2つ3つ,お話ししますと言って,1つは松井先生が言われたことでと言って,フォールスネガティブ等の話をされていますね。

中西 はい。

中村 このシンポジウムの主題にわたる,まさにこういうことをしてはならないということが今日の議題であるという中身については,ここでご指摘なさればよかったではありませんか。

中西 それは,議長としての議題の選択です。

中村 では,仮にあなたが座長としての配慮に基づいて,その場での発言をされなかった,または,議長としての議題の選択の問題として,そこで批判をされなかったんだということとして,シンポの終了後に,そのことを原告に確かめるということはなさいましたか。

中西 特に確かめるということは,もちろん,していません。

中村 原告の発言の趣旨を確かめてみようとは思いませんでしたか。

中西 私にとっては,非常に明らかなことと思えたんですね。これはまずいなということで,特に確かめる必要があるというふうにも思いませんでした。

中村 あなたは,ご自分のホームページで人を批判する前に,その方の発言が間違っていないかどうかということについて,確かめてからにしようというふうにはお考えにならないですか。

中西 今回のが,私の書いたことが間違いなんですか。

中村 一般的に伺っているんです。あなたは,ホームページで人を批判するときに,その前提となっている事実にっいて,確認するということをされていますか。

中西 ホームページにその事実を書くときに,いや,書いてあることがすべてと思って,批判をします。

中村 確認はされるんですか。

中西 しないです。書いてあることがすべてです。それを書いたものを読んで,どう考えるかです。あるいは純粋に,そういう批判ではなくて,質問をするっていうことは,もちろんありますが,それとは別です。私は,書き手とか,話をする人というのは,書いたこと,話したこと,それがすべてだと思っています。

中村 先ほど,あなたは,ご自分がホームページで情報を発信する場合の影響力の大きさについて述べていらっしゃいましたよね。

中西 はい。

中村 昨日現在のあなたのホームページの訪問者の数は,145万6000人余りだったんですけれども,このような,あなたのおっしゃるように影響力の大きなホームページに積極的に情報発信をされるという場合に,特に他人の批判を書かれるという場合に,何も基準を設けていらっしゃらないのでしょうか。

中西 今までに,もし,私が非常に間違ったことをたくさん書いていたとすれば,それだけのアクセスはないと思います。

中村 たくさんのアクセスがあるということは,正しかったということの証であろうとお考えだということですか。

中西 そうです。

中村 そうすると,ご自分としては,書いていいことと,いけないことの基準というのは,特に設けておられないということでしょうか。

中西 書いていいことと悪いことがあるかどうか,そして,その基準がどういうものか分かりませんが,私が書くべきだと思うことを書いてますし,もし間違いがあれば,直しています。

中村 もし間違いがあれば,直せばいいというふうに思っていらっしゃるということでしょうか。

中西 間違いがあったらです。

中村 間違いがあったら,事後的に直せばいいのではないかというふうに思ってらっしゃるということですか。

中西 極力,間違いがないように書いてはいますが,間違うこともあります。そういう場合には訂正してますし,抗議の文書とか何かも全部,掲載してます。そういう点が,非常に信用できるという方もおります。

中村 原告から抗議の文書が行っていますが,それについて,まず掲載しようということをされてませんよね。

中西 お名前を出すと,かえってご迷惑じゃないかと思って,きちっと調べてから対処しようと思いました。

中村 お名前を出していいですかとお聞きになればよかったんじゃないんですか。

中西 発表するときには,聞きます。まだそういう時期に達してなかったから,伺わなかったんです。もし,その時点でアップしてほしいという要求があれば,私は,すぐにでもアップしたと思います。

中村 松井さんから要求がなかったから,すぐにはアップしなかったということでしようか。

中西 はい。

中村 あなたは,学問的な批判であるという主張をされていますね。

中西 はい。

中村 どういうものが学問的な批判に当たるというふうにお考えですか。

中西 リスクコミュニケーションという学問自体が,多分,従来の学問という観点からすると,やや広がった感じがあるかと思います。例えば,物理学を研究するとか,生物学を研究するとかいうのとは,ちょっと,違ったものだと思います。要するに,どうやって人に伝えるか,どういうふうに伝えなければいけないか,それが学問の内容なんですね,リスクコミュニケーションの。きちっと学問として確立してきてるわけです。それを研究する人たちがたくさんいます。ですから,このリスクコミュニケーションの方法について私が意見を述べることは,当然,学問的な批判であると考えています。

中村 あなたがリスクコミュニケーションの方法について意見を述べることが,学問的批判に当たるというお考えですか。

中西 それもそうですね。リスクコミュニケーションというのは,どういう方法がいいかということを研究することが非常に大きな研究課題になってます。

中村 そうすると,ある人が,あるリスクコミュニケーションの方法をとったとして,それを批判するということは皆,学問的な批判に当たるということになるんでしょうか。

中西 ちょっとその仮定が多くて,お答えが難しいです。

原告(反訴被告)代理人(神山)
平成18年1月25日付け準備書面(2)を示す
神山 4ぺ一ジから5ぺ一ジのところに,そもそも,被告が本件記事で述べたのは,被告として原告の発言の趣旨を,社会が関心を持つべきテーマはもはや環境ホルモンではなく,ナノ粒子であるというものと受けとめたということであると書いてありますが,それでよろしいわけですね。

中西 はい。

神山 その後に,しかし,今後,社会が関心を持つべきテーマは,もはや環境ホルモンではなく,ナノ粒子であるかどうかは,研究者に共通する重要なことで,被告としても見逃せない発言であると,そのような重大な問題提起を,前述したようなお粗末な形で行われたので批判したと。つまり,ここでは,松井さんの発言を受けて,これから関心を持つべきテーマは,もはや環境ホルモンではないというふうに受けとめたということは間違いないわけですよね。

中西 うん,そう。松井さん自身の個人がそういう研究をするとか,そういうこととは全く考えずに,社会的な問題として強調しているというふうに考えました。

神山 社会的な問題として,環境ホルモンは終わったという,もはや環境ホルモンではないという発言の,そういう重大性ということはお考えになったんでしょうか。

中西 というか,そのように受け取ったということです。

神山 その受け取ったことは正しかったと,今も思ってらっしゃるんですか。

中西 そのように,その松井さんの発言をして,私は,そのときそう思った,そのことは正しかったと思っています。その内容自体が正しいかどうかは別です。

神山 内容の問題ではありません,あなたの受けとめ方です。

中西 はい,そうです。

神山 代謝のメカニズムというものと,解毒機構というのは,ほぼ同じ意味ではないんでしょうか。

中西 同じだと思います。

神山 先ほどの図を示したときに,これは代謝のメカニズムの話であって,解毒機構ではないという意味のことをおっしゃいましたけれども。

中西 それは,解毒機構というのは,代謝のメカニズムの中の代謝の一つ,代謝の中の一つのあれです。だから,例えばそこには,ベンゾ(a)ピレンの中には,それによって活性酸素のようなものができて,酸化的障害とか何とかと書いてありますね。そういうのも,必ずしもそれは代謝ではない,すぐに解毒とつながるかどうか分かりませんが,それは代謝の一つということです。

神山 代謝のメカニズムの図と,解毒機構は,全然違うというものではないですよね。

中西 ただ,その図を見ますと,解毒ってほんのちょっとしか分からないんですよね。

甲第8号証を示す
神山 この9図は,TCDDとインディルビンはほとんど同じ遺伝子を動かす,どこに毒性の違いがあるのかというふうに書いてありますよね。

中西 はい。

神山 口頭説明ではないですよ。9図そのもの。

中西 はい。

神山 これが,インディルビンは速やかに尿に排泄される,TCDDは排泄されず,細胞内に残留し,AhR初め遺伝子群を無駄に動かし続けると,こういう毒性の問題,インディルビンとTCDDの毒性の発現のメカニズムの違いみたいなことを述べてる図であることは,間違いないですよね。

中西 これ,違いが述べてないんですね,この図は。実は,TCDDとインディルビンがほとんど同じ遺伝子を動かすという,その結果が出てるんですよ。それで,じゃ,毒性の違いがどこにあるのかっていうのが,あんまり出てこないで,片っ方は尿に出てますよと,片っ方は,細胞内にありますよっていうことを言ってるんで,この図はむしろ,TCDDとインディルビンが同じ遺伝子を動かすということを言ってしまってるんですよね。

神山 尿に排泄されればいいけれども,排泄されないで細胞内に残留して,余分な遺伝子を動かし続けるということが毒性の本質ではないんですか。

中西 それは結果論ですよね。そうなっちゃってる。

神山 それは,毒性のことを言ってるのではないということですか。

中西 それも毒性の一つかどうか分かりませんが,毒性のメカニズムの説明になってるかどうかは難しいところですね。要するに,結果としてそうなってる,それはよく分かります。

神山 先ほど,あなたの研究室では1987年からダイオキシンの研究をしているとおっしゃいましたけれど,あなたの研究室というのは,どこの研究室のことですか。

中西 東大です。

神山 横浜国立大学の環境科学センターではないんですか。

中西 はい。

神山 横浜に移られてからは,ダイオキシンの研究はしておられなかったということですか。

中西 いえ,とんでもないです。ずっとやってる。

神山 あなたが個人的に,ずっとダイオキシンの研究をしてこられたということでしょうか。

中西 私の研究室でやってきたということです。

神山 そうすると,大学を移ってもなおかつ,ダイオキシンの研究をおやりになってきた。

中西 当然です,ええ。それで,すごくおもしろいことが,私は,東大で,日本ではない,最も優れたガスマスという装置を買って,研究しました。それは,東大で初めて,日本の国立大学で買ったものなんです。横浜国大に行って,再び新しいものを買いました。非常にメーカーに喜ばれたということがあります。

神山 それで,ダイオキシンについては,大した毒性はないという結論に達したということですか。

中西 毒性というのは,その量とか,どういう形であるかということについて言わないと意味がない。ダイオキシンそのものを持ってくれば,これは有害性が高いのは当たり前です。今,日本人がとってる,摂取している量のダイオキシンの量でどういうことがあるか,これが問題なわけですね。そのリスクについて,いろいろ計算をしてます。全くないとか,そういうことを言ったことはありません。

神山 そのリスクの計算ができるかできないかという点で,あなたと松井さんは考え方が違っているということはお分かりになってらっしゃいますよね。

中西 松井さんがそのリスクを計算できないと言っているかどうかということについて,私は知りませんが,一応,厚生労働省,環境省,あるいはWHO,それからいろんな機関が,この量であれば安全という量を出しております。その値をもとに,私どもは計算をしております。

神山 その量が安全というのは,つまり死とか,がんになるとかいうことをもとにして計算している量であることは間違いないですね。

中西 違います。それは,親が摂取したダイオキシンが胎児に伝わって,胎児の免疫毒性が出るかどうか,あるいは,性器などの形に異常が出るかなどというところを判断の基準にした安全値です。

神山 生まれることができないかどうかなんていうところまでは,調べることはできないですよね。

中西 それはよく,私には分かりません。

原告(反訴被告)代理人(中下) 先ほど,謝罪のところで,もし間違いがあれば悪いなというふうに思われたという証言をされましたね。

中西 はい。

中下 間違いがあればというのは,どういうところに間違いがあるかもしれないというふうにお考えになりましたか。

中西 それは私むしろこういう機会,お話しする機会があって,大変うれしいんで,お話ししたかったです。私は,新聞の記事が手に入っておりませんでしたので,自分が見た新聞記事の内容が,私が思ってる,フラーレンでEva Oberdorsterという人がやった研究のことが載ってなかったのかなというふうに思ってしまったんですね。それで,そのことをホームページに,EvaOberdorsterのものだと思って書きましたから,あるいはそれが間違いであったかというふうに思ったんですが,その後,新聞を取り寄せましたら,私の思ったとおり,その記事であったということです。

甲第3号証を示す
中下 松井先生から来た抗議文ですが,これはもちろん,ご覧になっておられますよね。

中西 はい。

中下 これは,抗議文が届いたころ,つまり2005年1月17目ごろに読まれたということでよろしいんでしょうか。

中西 はい,その日に。

中下 抗議文の内容は,どんな抗議だったですか。

中西 ・・・それ,ちょっと見せていただいて。

中下 どういうご記憶で。

中西 それはどういう内容だったかというのは・・・。

中下 どういう抗議が来たというふうに思っておられるわけですか。

中西 幾つかあったと思うんですけども,その中には,明らかに,後で考えると違ったこともありますので,何かちょっと,そういう意味では,完全にこれとこれとこれっていう明確なものはなかったんじゃないかと思うんですね。それちょっと,はっきりは覚えておりません。

中下 今でも,そういうご記憶なんですか。

中西 そうですね。

中下 例えば,この抗議文は,かなりきつい言葉が使われてるんですね。この表現は私に対する侮辱ですかとか,私の15分間のプレゼンテーションを,あなたは,頭から聞かずに無視をしていたのですかとか,あるいは,環境ホルモンは終わった,今度はナノ粒子の有害性を問題にしようとするという意味であるということに対しては,私は,決して次のような発言はしていませんというふうに,これは,あなたが意図的にこのような発言をしているのですかとか,大変強い調子で書かれているんですよ。そういうご印象はないんです
か。

中西 それは,強い印象というのはありましたが,今,言われてるような内容が,どういうんでしょうか,私が言ってることや書いてることと余りにも違うので,一つ一つについては,どうも違うなあという印象としてしか残っておりません。

中下 ただ,言ってもいないことを,私はこういうふうに発言しておりませんという抗議があるのに,これに対しては,そういう抗議があった場合はどうですか,あなたはどういうふうに対処されるんですか。

中西 それ,待ってください。その今までの松井先生が言われてきたことを,私どもはこの裁判の中で,いろいろきちっと書証などを出して,否定してきてると思うんですね。

中下 当時のあなたの認識を聞いてるんですよ。こういう抗議を受けて,自分は言ってないことを引用されて,それで批判されてるから,抗議してるんでしょう。そういう抗議が来たのを読んで,あなたとしては,どう受けとめられるわけ。事実を確認しようと思わなかったですか。

中西 それは,事実を確認して,対処しますというふうにお返事したわけです。

中下 提訴後も,あなたは,ホームページでいろいろ,この裁判についての記事を書いておられますよね。

中西 はい。

中下 これについて,リスクコミュニケーションに関係してるというふうに考えておられるんですか。

中西 いや,それは別に,そういうふうには思っておりません。

中下 学問的自由の範囲内だというふうにお考えになってるわけではないんですね。

中西 私は別に,リスクコミュニケーションだけが学問だとは思っておりません。

中下 じゃ,学問的範囲内のことだというふうに考えて,書いておられるということですか。

中西 そういうものもあるし,そうでないものもあると思います

以上