「板橋区ホタル生態環境館事件」の全容と関連資料
ホタル生態環境館事件とは
元板橋区の職員であった阿部宣男氏は、板橋区ホタル生態環境館の運営を担当していた。ホタル生態環境館とは、ホタルの累代飼育を行い区民に公開するという触れ込みで運営されていた施設である。阿部氏は、運営にあたって、本来の役職ではないホタル館の「館長」を自称していた。ところが、区の調査により、累代飼育の実態が無かったのではないかということがわかり、結果として、26年にわたり10億円以上がつぎ込まれた事業であるのに、予算の大半が使途不明金となっている(累代飼育に対して予算をつけたのに実態が無かったり他からホタルを持ち込んだりしてたとなると、予算が本来の用途に使われなかったことになるので、じゃあ一体何に使ってどこに支払ったの?という話になる)。松崎区議は当初はホタル館存続に積極的であったが、運営に疑問が生じたので、区議として、実態解明のために奔走しつつ、阿部氏に対する批判を公言していたところ、阿部氏から名誉毀損を理由に提訴された。
板橋区としては、不正を行ったとみられる職員をそのままにはしておけないので阿部氏を懲戒免職、阿部氏はこれを不服として板橋区を提訴、というお約束の展開となり、現在、本件以外に3つの訴訟が進行中となった(2016/09/08現在)。
話をややこしくしているのは、事件全体が1つの訴訟になっているわけではなく、阿部氏が一部のみを取り上げて別々の訴訟を行っているところにある。下に、どの事件で何が争われているかをざっと書いておく。
ややこしくする方法としては、例えば、板橋区が阿部氏を懲戒処分する理由としたのは、ホタルの累代飼育が行われていたかどうかではなく、民間企業への便宜供与と設備管理が不適切だったということである。このため、懲戒免職の方の裁判で、裁判所からホタルの飼育について争うかときかれても、区としては(ただ単に懲戒の理由に入れていなかったので、訴訟と関係が無いため)争わないと答えるしかない。すると、阿部氏は、板橋区はホタルの飼育について争っていない=飼育が行われていたことは板橋区も認めている、という論理を松崎氏との裁判で展開する、といったことをしている。このため、裁判を1つだけ見たのでは、判断を誤る可能性がある。
進行中の訴訟一覧
懲戒免職取消請求事件(阿部宣男vs.板橋区)平成26年(行ウ)第256号
懲戒の理由となった阿部氏の行為はおよそ次の通り。
- ホタルせせらぎの特許権無断使用、静岡県小山町でのルシオラ社への便宜供与
- クロマルハナバチ飼育販売(能登町)でのイノリー企画への便宜供与
- 樋口とくじ氏へのホタル館の鍵の無断貸与
未払残業代請求事件(阿部宣男vs.板橋区)平成26年(行ウ)第274号
- 阿部氏は「365日休日なしで、早朝5時半から深夜1時半まで勤務していた」と主張。その根拠はホタル館の開錠、施錠の記録。
- ナノ銀除染(ナノ銀で福島原発事故の放射能を除染できるという主張)の研究も「公務」と主張し、残業代を請求。
残業には上司の許可が必要なので、無許可残業をしていたことになるとのこと。さらにホタル館の鍵の管理を無断で民間ボランティアの樋口氏にさせていたというのと合わせると、開錠・施錠時間が記録されていたとしても、阿部氏のホタル館滞在時間がその通りだったとはいえないような……。なおホタル館は放射線管理区域でもなく、RIを使った実験のできる設備でもなかったのに、公務でナノ銀除染の研究って一体?
契約打ち切り損害賠償請求事件(高久秀雄(むし企画代表)vs.板橋区)平成26年(ワ)第18690号
- ホタル館の実態調査(2014年1月27日)の結果(2匹しかいない)をうけ、区は「むし企画」に契約内容の履行能力無しと判断し、契約期間2ヶ月を残し、途中解除。これが提訴の原因。
- むし企画の弁護団は阿部氏の弁護団と同じ。
- ホタルの数あわせを阿部氏が命じた非正規の「仕様書」の存在が明らかになった。
阿部氏はホタル館の管理業務を委託する側つまり発注側で、高久氏は受託側つまり受注側。業務委託でトラブルが発生したら、阿部氏と高久氏の利害が対立するのが普通である。ところで、弁護士は、既に受任している依頼者と利害が対立する人の事件は受けられない場合がある。たとえばこちらに解説がある。ホタル館の業務でトラブルが発生したのに、阿部氏と高久氏の利害が対立しないとお二方自身も事件を受けた弁護団も判断したと考えるしかないわけで、変な話である。
損害賠償請求事件(阿部vs.松崎)
平成26年(ワ)第29256号。本件名誉毀損訴訟。